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富山県朝日町のノッカルと外部人材の価値

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年8月28日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸 (第3251号 令和5年8月28日)

 富山県の東端、新潟県境にある朝日町は、親不知海岸から続く北陸道の要衝として栄えてきた泊を中心とする、人口1万1千人の自治体である。かつてこの欄で、コロナ禍でいち早くタブレット端末を小中学生に配布し、学習の成果を挙げた動きを紹介したこともある。

 この町で、令和2年にわが国最初の事業者協力型の自家用有償旅客運送の実証実験が始まり、翌年からは無事実際の運行に進んだ。わかりやすく言えば、バス会社やタクシー会社の協力の上で住民が自家用車で人を運ぶ仕組みのことであり、ノッカルと名付けられた。

 朝日町のコミュニティバスの路線網は、新幹線へのエクスプレスもあるなどかなり充実しているが、散居の地区など、バス停から遠い家もかなりある。これらの人に予約のうえでの自家用車運送を用意しようというチャレンジである。

 事業を始める場合には、いろんな状況を想定し、それへの対応を考えておかなければならないし、初めての事業とあって国交省との折衝も大変であった。困難な準備を比較的早く終えることができ、実証実験にこぎつけることができたが、そこには外部人材の存在があった。

 朝日町には、地方のアクティベーションを事業の1つに掲げる東京の大手企業からの出向者がいたのである。氏は、次世代パブリックマネジメントアドバイザーという肩書で朝日町に勤務し、新しい仕事や複雑な事業の構築にアドバイスしてきた。ノッカルの実現には国交省との折衝はじめ、システムの構築に相当かかわり、名前も提案したようである。この企業は全国に社員を派遣しているが、朝日町に出向したのは、ワークショップをやったときに町長が強く反応されたことが大きいと、本人から聞いた。

 筆者は、すでに1998年に最初の著書『地域を活かす』に、過疎地域における外部人材の活用の価値を指摘し、地域には資源や個性はあるが、それを発展的に育てるには、広い世間に通用する普遍的な発想と判断が必要であると主張した。そしてこれを「個性と普遍性のドッキング」と呼んだが、その主張は今も変わっていない。

 朝日町の既存のバス・タクシーの協力でノッカルの仕組みを構築するには、広い世間の普遍的な仕組みを知り、地域に合う形にしていく議論が必要で、まさに個性と普遍性のドッキングが必要だったと思う。ちなみに有償運送の予約を受け付けてドライバーに伝えるのはタクシー会社で、ノッカルの支払いにはコミュニティバスの回数券が使用されている。