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空き家再生と高付加価値旅行

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年8月21日

國學院大學教授​ 西村 幸夫(第3250号 令和5年8月21日)

 増え続ける空き家の再生問題は全国的な課題となっている。とりわけ条件不利地域にとっては集落の存亡にかかわる問題である。このことと高付加価値旅行とがどのように関係するのか、いぶかしく思う向きもあるに違いない。しかし、突き詰めて考えると両者には思いのほか共通点が多い。

 1回の旅行消費額が一人当たり100万円を超えるようないわゆる高付加価値層というのは、訪日旅行者の1%に過ぎないが、その消費額は約12%にのぼっている。そしてそうした層の人々は地域の文化や伝統に関心が高く、自然や食も含めて、本物志向が強いといわれている。特に地域の生活の実感への関心が高く、スピリチュアルな体験を大切にするという傾向がある。あるいは、居心地のいい場所でゆっくりと長期滞在するという傾向もある。つまり、サイトシーイングではなく、リトリートに適した自然や文化、伝統を感じさせる土地が求められているのである。

 こうしたことを踏まえて、観光庁では高付加価値旅行者を「地域の伝統、文化等の体験を通じた地域経済の活性化、文化・伝統の未来への継承という観光の本質を体現してくれる人々」とまで表現している。こうした旅行者をたんに富裕層として捉えるだけでなく、日本のファンのすそ野を増やしてくれるための山の頂だと考えるとわかりやすい。山は高ければ高いほど、すそ野も広がるからである。

 ただし、現状では高付加価値旅行者の滞在地はまだ大都市に偏っている。地方部には高付加価値旅行者を受け入れる宿が限られているからである。こうした旅行者を地方へ呼び込むために観光庁は今年度、モデル観光地を11か所選んでいる。それらを見ると、東北海道や北陸、奈良南部和歌山那智勝浦、せとうち、鳥取・島根、沖縄・奄美エリアなど、いわゆる過疎地が数多く含まれている。

 課題としての宿も、たんにラグジュアリーホテルだけなく、空き家となった古民家も有力な候補となり得る。滞在日数が比較的長い民泊など、より広い層の旅行者へも対応できるだろう。空き家再生と高付加価値旅行とは意外に相性がいいといえる。