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“50aの壁”撤廃は何をもたらすか

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年5月29日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3241号 令和5年5月29日)

農地法の改正で、この4月、農地の売買・贈与・貸借に関する「下限面積要件」が撤廃された。

従来の下限面積要件は、都府県で50a、北海道では2ha。09年の農地法改正で、自治体判断での要件緩和が認められ、すでに10a~30a程度まで引き下げていた自治体が多いが、「撤廃」となると話は別だ。

従来の面積要件は、不正転用や簡単な耕作放棄を阻止するハードルでもあった。しかし、今後は家庭菜園程度の1a未満であっても、取得・貸借を断ることができない。これだけドラスチックな転換なのに、今回の決定プロセスが乱暴だという批判には筆者も共感する。

しかし、逆に見れば、中山間地を抱える多くの町村にとって、兼業・自給農を前提としたIターン者の確保や、地域の非農家を水路や畦畔管理などで従来の担い手との協同関係を築く上でプラス要素にもなる。

すでに1aまで面積要件を下げていた北陸地方の自治体の農業委員は、「そもそも50aという既存の面積要件でも、とくに土地利用型農業であれば農業経営など成り立たないのが現実。不安はあるが、面積の大小にかかわらず地域の農地を守る仲間を増やしたほうがいい」と言う。

実際、現場取材をしていると、兼業で新規就農した「小さな農の担い手」が活躍しているケースを少なからず見かける。たとえば、10aまで下限面積要件を下げ、「市民農業塾(新規就農コース)」で非農家から小規模農家を育成してきた神奈川県秦野市では、15年間で73人が市内で就農している。半農半Xや定年帰農も多いが、面積を拡大し、今では青果流通業者を通じて都内に販路を広げている方たちもいる。

秦野市に限らず、兵庫県神戸市の「マイクロファーマーズスクール」や長野県の「農ある暮らし入門研修」、千葉県睦沢町の「チバニアン兼業農学校」など、すでに小規模農家の育成を始めている地域は少なくない。

まずは農地取得の前に貸借を進め、利用権設定には地域との調和や集落での協同作業への参加、貸借契約間の農地管理の責任を確認するなど、フィルターをかけるのは必要だが、やり方次第では多様な担い手を呼び込む武器にもなる。その体制づくりは、農業委員会だけでなく、地域農政の中に、この政策転換をどう活かすか位置づける必要があると思う。​