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過疎山村に射す希望の光

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年1月6日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸(第2864号 平成26年1月6日)

この数年、毎年のように高知県大豊町にお邪魔している。大豊町は嶺北と呼ばれる高知県の北部の山間地帯にあり、平地はほとんどない。約315㎢の急傾斜の山の斜面に、80を超える集落がへばりつく。高齢化も深刻で、最近の高齢化率は53%、全住民の平均年齢が60歳を超えている。この厳しい状況に対して岩崎憲郎町長は多くの意義ある施策を展開されているが、それを同行する自治体職員や学生に学んでもらうのが、筆者の大豊詣での目的に他ならない。

街の中心部を高松から高知に向かう国道が貫き、高速道路のインターもあるが、集落をつなぐ狭小な町道など、町が管理する生活道路の総延長は500キロを超える。町長は地区との話し合いを重ね、舗装に穴があいた時には、地区に保管してある資材で住民が修復するようなルールもつくっておられる。またIP電話による見守りのしくみや、乗り合いタクシーの制度などもあり、いざというときには2000円の自己負担で高知市の病院まで行けるようになっている。乏しい予算を何に使うべきかを考え抜かれた結果であろう。

この町では、山のみならずかつて畑だった家の周りにも杉が植えられ、それがかなり育って民家を隠すほどになっていて、町長からは、これが活用できれば500億円近い価値になるとたびたび伺った。そしてそれが今、現実になろうとしている。

岩崎町長は大豊町の木を活かすために、CLTの本格的な生産で注目を浴びている岡山県真庭市の銘建工業に早くから接触されてきたが、それが実り、昨年、同社を筆頭出資者として<高知おおとよ製材(株)>が設立され、今年8月からCLTのための材の生産が始まった。CLTとは、クロス・ラミネイティド・ティンバーの略で、木目が直行する方向に板を重ねた集成材のことで、建築資材として抜群の強度が得られ、すでに欧州では9階建ての実績があるという。木をとことん活かす同社の価値は、ベストセラーになっている藻谷浩介氏らの『里山資本主義』でも大きく取り上げられ、そこには大豊町に関する記述もある。

高知おおとよ製材ではすでに40人が働いており、2年後には60人の職場になる予定である。製材工場には副産物の木屑を燃料にしたバイオマス発電所が併設され、動力はすべてそこから供給される点もすばらしい。大豊町はかつて研究者によって「限界集落」という言葉が生み出された町でもある。過疎山村に眠る資源が環境にやさしい先端技術で活用されることを喜び、忙しい中をいつも案内してくださる岩崎町長に心から敬意を表したい。