法政大学名誉教授 岡﨑 昌之(第3177号 令和3年10月18日)
今回の東京オリンピック・パラリンピックの開催を巡っては賛否両論、多様な意見があった。しかしウイルスパンデミック下、閉鎖的な生活を強いられるなかで、もし開催中止となっていたなら、なんと陰鬱な暑い夏を送っていたかと、想像することすらはばかられる。多くの会場が無観客を強いられたが、開催できたからこそ多くの感動や感銘を分かち合えたのは厳然たる事実だ。
心に残ったのは、日本のメダル受賞者の多くが、自らの血の滲むような鍛錬や研鑽を脇において、支えてくれた家族や友人、コーチはもちろん、地元の商店街や地域社会に感謝の念を表していたことだ。メダルを勝ち得た栄誉が自らの力だけでなく、周囲の多くの人たちのおかげだと考えたのだ。
地域社会にしっかりと根をおろしたスポーツでなければ発展はないと、地域密着を標榜して1993年に発足したのがサッカーのJリーグだ。ともすれば学校や企業中心であった日本のスポーツを地域に根付いたものにしようと、ドイツに学びリーグの土台を築いたのが、いずれも鬼籍に入られた長沼健氏や岡野俊一郎氏だった。今やバスケットボールのBリーグなど、多くのプロチームがホームタウンの活性化を目標に掲げている。
このところ町村や農山漁村を活動の基点にしたスポーツの話題も多い。宮城県女川町のサッカー東北社会人リーグ1部のコバルトーレ女川は、東日本大震災を乗り越え、地域社会との絆をより深めている。残念ながら、今秋完成した町の新スタジアムでの初試合は延期となったが、リーグ1位を走る。新潟県では大地の芸術祭から生まれた北信越女子サッカーリーグ2部のFC越後妻有が注目を集める。棚田の担い手として移住、就農した選手たちで結成され、長靴とスパイクの二足のわらじで里山の新しい暮らしを提案している。
熊本県嘉島町は県サッカー協会と連携して、新しくフットボールセンターを来夏オープンする。2面の人工芝ピッチを持つ本格的競技場だが、施設内に保育園や多目的スタジオも整備し、たんなるスポーツ施設ではなく、地域の活動交流拠点の役割を担う。完成すれば国内でもユニークな施設となる。
スポーツの原義は、仕事から離れて精神を開放することだという。地域に根付いた幅広いスポーツの場が生まれようとしている。