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プロセス重視の地域づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年10月11日

明治大学大学院農学研究科長 小田切 徳美(第3176号 令和3年10月11日)

近年の農山漁村における地域づくりには、少なくとも2つの前進面がある。1つは外部人材の活用である。その代表例が地域おこし協力隊であり、現場ではいまや当たり前の存在である。この外部人材に対しては、「補助金よりも補助人」という言葉で、早くから地域からの期待があった。その点で、協力隊を含め、地域おこし企業人(現・地域活性化起業人)や地域プロジェクトマネージャーなど、各種の人材制度の充実は、その期待に応える地域づくり支援の発展過程を示している。

もう1つは、「プロセス重視」という発想と実践である。筆者がその有効性を強く実感したのは、新潟県中越地方において、集落再生支援の「足し算・かけ算」という議論に接してからである。この点については、既に本欄でも紹介しているが(2017年6月27日号)、一言で言えば、2004年の中越地震時の復興過程では、まずは被災した人々に対して、寄り添うような対応(足し算型支援)が重要であり、そうした時間をかけた活動の積み重ねが、その後、経済活動の新設等の事業支援(掛け算型支援)につながるというものであった。

これは1つの例であるが、地域づくりには、段階的なプロセスがあり、しかもそこには多様なパターンがある。地域毎に、独自にデザインされるべきものであろう。最近では、このようなプロセスデザインを、特に意識する取組も多く、これも地域づくりの前進面である。

しかし、他方で政策担当者の中には、企画した予算がつくと、設定された短期の事業期間に必ず成果が出ると勘違いをし、そのため事業の数的成果にこだわる者もいる。さらに、地域づくりの過程では多様な主体が協働するのが当然であるが、視野に入るのは政策のみとなり、逆に政策への依存傾向を強めることになる。つまり、いつのまにかプロセスへの配慮が吹き飛んでしまう。

その点で、「プロセス重視」の考え方は、地域づくりにおいて一層広がる必要がある。現在の政策課題とされる、先発事例の「横展開」にしても、広げるべきは、「何をしたか」ではなく「どうしたか」であり、先発地域から学ぶべきは「プロセス」であろう。そのために、求められているのは今までのような成果を誇る「事例集」ではなく、その取組において、地域の合意形成はどのように進められ、直面する様々な課題を、いかにして乗り越えたのかを学べる「プロセス事例集」ではないだろうか。

地域における「プロセス重視」の実践のさらなる充実に期待したい。