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対策と効果の観点も

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年9月6日

福島大学教授 生源寺 眞一(第3172号 令和3年9月6日)

この原稿をパソコンに入力しているのは、締め切りが翌日に迫った8月19日。自分で言うのも変だが、こうしたコラムなどを長年にわたって比較的余裕をもって執筆してきた経緯からすると、今回はやや異例の状況となった。理由ははっきりしている。テーマを変えたのである。1週間前までは別の話題を念頭に置いていたのだが、迷いが生じることになった。西日本から東海に広がった豪雨のニュースに連日接したことによる。若いころから全国の農村に足繁く通った経験もあって、被災地の地名が気になる。なかには田畑や森の様子が具体的に思い浮かぶ町村の災害も報じられている。

この夏の豪雨には、1993年を連想させる面がある。梅雨が明けなかったなどと表現された冷夏の年であった。30代半ば以上の方であれば、米の不作による混乱がご記憶にあるのではないか。平成の米騒動などと報じたマスコミもあった。東北を中心とする冷害によって、平年比で74%に減収したからである。今回の長期の豪雨の農作物への影響についても、すでに被害が確認されているケースがある。当面は予断を許さない状況が続くとみるべきであろう。

ここで改めて注目しておきたいのが、地域農政未来塾4期生の郡司裕美子さん(茨城町役場)の研究と実践である。多彩な内容からなるが、ポイントは台風や豪雨による被害にあった農産物などについて、菓子店・パン屋などの加工業の有効利用につないで、農家の金銭的なダメージやメンタル面の困難を救済するところにある。取組は現在進行形であり、郡司さんご自身が由緒ある大日本農会の機関誌『農業』の7月号に寄稿している。

自然災害については、被災の原因と結果が報じられるわけだが、事前に対策を講じたことによって被害が回避されたケースも存在するはずである。回避に至らないまでも、軽減されることもあるだろう。どんな対策によってどのように回避・軽減されたかを把握し、情報として共有することも大切なのである。郡司さんの研究と実践には、対策と効果をめぐる情報の重要性を発信している面がある。