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「予約」するということ~観光の新たな行動様式~

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年8月23日

國學院大學教授 梅川 智也(第3170号 令和3年8月23日)

これまで予約といえば、病院、新幹線、飛行機・・・、たまに人気のレストランか、といった私のような方も多いのではなかろうか。しかしながら、コロナ禍を契機に、観光施設をはじめ神社仏閣、美術館や博物館、スポーツ観戦などで「予約制」が一気に普及した。感染拡大防止のため密閉、密集、密接の三密を避けたい施設側の意向とシステム開発が上手く適合した結果と言える。

自らの貴重な“時間”と“金”を使って出掛ける個人旅行の特権は、行きたいときに行き、食べたいときに食べ、観たいときに観るという自由さ、気楽さにある。それこそが業務出張とは異なる個人旅行の大切な価値であろう。だが、無計画で気ままな行動は、ときには利用の集中を生むだけでなく、提供されるサービスの高付加価値化を妨げていたことに思い至った。

観光にとって最大の課題は「平準化」である。季節変動、曜日変動、天候変動という三重苦の需要変動の上で成立しているのが日本の観光産業である。製造業などに比べて生産性が低いと言われるのはこの需要変動によるところが大きい。いかに平準化させるかは業界が抱える宿命とも言える。

特定の時期、特定の場所に利用者が集中し、オーバーツーリズムという観光の負の側面が問題視されることが多い。しかし、予約制の導入によって一つの有効な解決策が提示されたとも言える。“混雑度を見える化”することで、利用者自らが混雑回避行動を選択するとともに、逆に利用者が少ないとき、施設側は特別な企画などを用意して利用促進を図ることができる。これが年間を通じた平準化に繋がっていく。そして、需要のコントロールだけでなく、一定の利用者属性が事前に入力されることによって、いつどういう人が来訪するのかがある程度想定でき、顧客管理はもちろんのこと、提供するサービスの付加価値を高めることができるようになる。

こうした予約制の導入は、利用者にとって、施設側や関係する事業者にとって、受け入れる地域やコミュニティにとって“三方よし”の施策となりうる。新型コロナウイルスを契機として平準化と高付加価値化いうわが国特有の観光課題解決の糸口が見出せたことは不幸中の幸いであろう。「事前に予約を!」という新しい観光行動の様式が今後さらに定着していくことが期待される。