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コロナ下で教育の灯を守る-富山県朝日町のデジタル化-

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年7月12日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸(第3166号 令和3年7月12日)

富山県の東端、新潟県境に位置する朝日町は、ヒスイ海岸で著名な町である。県境に近い4㎞の砂利浜で、今でもヒスイの原石を見つけることができる。人口は1万1、500人ほどで、平成22年から過疎地域の指定を受けている。早くから過疎地域における高校の価値を訴えてきた筆者は、この町にある泊高校の存続問題で講演に呼ばれ、かかわりを持たせていただくようになった。

新型コロナ感染の増加で全国の小中学校が休業となった昨年の5月、町では、教員・保護者・地域住民で「オンライン授業推進会議」を設立してその推進の必要性を強力に呼び掛け、保護者の9割から支持を得た。そしてこの休業時に小学6年の全児童にデジタル教科書付きのタブレットを貸出したところ、英語のネイティブの発音の価値など、大きな支持が得られた。笹原町長の主導で、数年前に2つの小学校の1学年分のタブレットを確保していたことが、この敏速な対応につながった。

町は昨年9月には児童生徒に一人1台のタブレット端末を配り、Wi-Fi環境のない家庭にはモバイルルーターを配備するという徹底ぶりで、敏速にオンライン教育環境を完成した。再度の感染拡大に対する危機感がこれを後押しした。筆者はこの6月に小学校の授業を見学したが、児童たちは各自の名前のシールが張られたタブレットパソコンを前に、先生の問いかけに敏感に反応していた。

町教委は、文科省の中学校部活動の地域移行の方向付けにもいち早く反応して町の体育協会及び関係者と協議を重ね、今年度から「朝日町型コミュニティクラブ」の名のもとに、週2日の部活動を地域の指導者に委ねている。地域の指導者の積極的な参加で、3つ程度という当局の予想を超えて、運動部7つと文化部の吹奏楽に地域の力が活かされることになった。教員の日常にゆとりをもたらしたことは言うまでもない。これも行政と住民の距離が近い町村ならではの成果と思う。

この町では空き家情報バンクの活動で、この5年間にUIターン含めて73世帯の町外からの移住を実現しているし、一昨年には、農業従事希望の地域おこし協力隊員のための宿舎「農学舎」を建てるなど、何事も敏速にという姿勢の笹原町長のもと、いい動きが続々と生まれている。また、新しい取組の実現をリードした木村教育長が、筆者が長く勤めた早稲田大学教育学部の出身であることも頼もしい。