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半農半X

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年6月7日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3162号 令和3年6月7日)

いま、「半農半X」が注目されている。その提唱者である塩見直紀氏がこの言葉を世に送りだしたのが1999年であるから、20年以上を経て、再評価されていると言っても良い。

現在の議論は、国の農政における農村政策の見直しのなかで生まれている。昨年(2020年)3月に制定された新しい食料・農業・農村基本計画の争点のひとつは、「農村政策の再生」であった。農産物輸出や農地集積等の農政の産業政策的側面が強調されるなかで、空洞化が進んだ地域政策的側面を、改めて体系化することにより、埋めることが求められていたのである。

農政当局は「地域政策の総合化」という表現を使い、それに応えようとした。そして、提案されたのが、「しごと」(所得と雇用機会の確保)、「くらし」(農村に住み続けるための条件整備)、「活力」(農村における新たな活力の創出)という3要素の一体的対応である。

「半農半X」は、この「活力」のパートで、「農村で副業・兼業などの多様なライフスタイルを実現するための、農業と他の仕事を組み合わせた働き方である『半農半X』やデュアルライフ(二地域居住)を実践する者等を増加させるための方策(の検討)」と書き込まれている。これは、塩見氏が強調するライフスタイルとしての「半農半X」を意識したものであろう。

他方で、「しごと」のパートでは、「活用可能な農村の地域資源を発掘し、磨き上げた上で、これまでにない他分野と組み合わせる取組」(農村発イノベーション」)が位置づけられている。これは、産業の担い手として「半農半X」が想定されていると言えよう。

これらの計画内容については、その後、農水省の検討会等での議論が進んでおり、後者については、事業体による「半農半X」として、農業を含めた多角的展開を行う地域運営組織、つまり「農村地域づくり事業体」の設立支援が議論されている。

こうした「半農半X」の強調は、農業の担い手論から見れば、従来の担い手を大規模経営だけに限定する農政の転換の契機にもなる。つまり、多様な性格をもつ農業者が共存する、重層的担い手構造の地域レベルでの構築が求められている。

「半農半X」が唱えられてから20年余。その議論は、都市と農村をつなぐライフスタイルとして、また農業のひとつの在り方としてさらに注目されている。それは、暮らし方や働き方の転換が求められる、ポストコロナ社会に相応しいキーワードであろう。