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くまもと☆農家ハンター

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年4月12日更新

法政大学名誉教授 岡﨑 昌之(第3156号 令和3年4月12日)

鳥獣被害が止まない。農水省によれば令和元年度の被害額は158億円という。鹿やサルの被害も多いが、イノシシの被害は農家の身近なところで発生するので影響は大きい。しかしこうした鳥獣被害に対しても、最先端のICTをフル活用して対策に取り組む試みが各地であらわれてきた。

熊本県西部の宇土半島はデコポンをはじめ柑橘類の産地だが、ここにも7年ほど前からイノシシが出没しはじめた。収穫直前の果物や葉物の野菜などが被害に遭うようになった。農家は精神的に大きなダメージを受けるとともに、山や畑に怖くて行けないという恐怖感も覚える。そうした農家の訴えを受けて「地域を守る消防団のようにイノシシから地域と畑を守ろう」と、旧三角町の戸馳島で平成28年に立ち上がったのが「くまもと☆農家ハンター」だ。

クラウドファンディングを活用して350万円を募り、箱罠40基、センサーカメラ10基、通信機器を準備し、ICTをフル活用した捕獲活動を開始した。AIに学習させカメラがイノシシを認識し、箱罠の作動状況の画像をスマホやパソコンの端末で確認する。そうしたリアルタイムの情報で見回り時間を短縮し、近隣農家へも情報提供し、農家の安心にも繋げている。最近ではIT企業と連携し、3Dマップで地域の地形をパソコンの画面上で可視化し、イノシシの捕獲状況をリアルタイムで把握して地図上に表示したり、出現地点の予測ができるシステムも開発している。

こうした取組は県内の若手農家の共感も呼び、メンバーは130人を数えるようになり、県外から賛同する若者も移住してきた。「日本の農業の将来のため」と熱く活動を率いる代表の宮川将人さん(42)は洋ラン栽培農家の3代目。「最も重要な農具はパソコン」とイノシシ対策にもICTの可能性を確信するが、他方で「箱罠近くに住む高齢者の見回りと通報が最も頼りになる」と地域社会との連携を重視する。捕獲頭数は千頭を超えるようになり、食肉処理加工施設ジビエファームも完成した。最近では島内の空家を再生して八代海も視野に入れたジビエツーリズムも準備中だ。