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「関係人口」の見方

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年3月15日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3152号 令和3年3月15日​

「関係人口」という言葉が、マスメディアに登場する機会が増えている。しかし、地方自治体の関係者、特に幹部の中には、本音では「関係人口にいったいどのような意味があるのか」という思いを抱いている方もいるようである。それは、関係人口を増やしても、「住民税も、地方交付税も期待できない」からであろう。実際、筆者も会議の場でこうした指摘を受けたことがある。

しかし、そこには関係人口に対する過小評価がある。昨年、実施された国土交通省による大規模調査(18歳以上を対象)によれば、「定期的・継続的に関わりがあり、かつ地域を訪れる」と定義される訪問型関係人口は、三大都市圏都市部の人口の約18%おり、その実数は約861万人と推計されている。その内訳を見ると、大都市圏内に関わりを求める「都市内関係人口」も多いが、それでも三大都市圏都市部以外に関わり、訪問する人も実数で約448万人いる。また、この訪問型人口をさらに、その活動で分類すれば、地域のイベントや企画などの運営にかかわる「直接寄与型」の人々は、三大都市圏都市部人口の約6%、つまり約300万人もいる。

このように、都市部の人口の大きさをベースとして、そのなかには特定の地域に関心を持ち、関与を続ける関係人口の数は、地方から見ても気にしなくても良い数ではない。

そして、それ以上に、注目すべきなのは、彼らの役割である。関係人口の特徴はその多様性にある。しかし、住民が活発な活動を行っている地域に集まる傾向は共通に見られる。そのため、先の国交省アンケートでも、関係人口密度(人口あたりの関係人口の数)が高い市町村として、地域づくりで著名な北海道ニセコ町や島根県海士町、鳥取県智頭町などがデータ上でもはっきりと確認できる。さらに言えば、そのような地域では大都市からの移住傾向も強い。多様な関係人口を、移住者予備軍と決めつけてしまうのは問題であるが、結果としては、そのような地域では、移住者の数も多い。

つまり、関係人口の多寡は、地域づくり活動の活力を表すリトマス試験紙のようにも捉えることができる。積極的に地域の諸活動に関与する「直接寄与型」のような人々は、魅力的な人や場面、時間の流れがなければ、集まることはないであろう。

そうした人々を、「住民税も、交付税も・・・」と、相手にしないとすれば、むしろその自治体は、トップからして地域づくりを諦めた地域なのかもしれない。