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高齢社会の地域づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年2月22日

民俗研究家 結城 登美雄(第3150号・令和3年2月22日)

近年、東北各地の町村を訪ね歩くと、『空き家、あります』と書かれた紙を貼った民家が、急速に増えていると感じる。空き家は、いわゆる過疎地や限界集落地域だけでなく、比較的人口の多い町村の中心部でも増えている。総務省の「住宅・土地統計調査」(平成30年)によれば、全国の空き家率は13・6%と過去最高になっており、戸数にして850万戸近くになるという。7戸に1戸が空き家になっている日本の厳しい現状。このままでは2028年には1、700万戸を超え、4戸に1戸が空き家になるという調査もある。この空き家の増加は日本の何を物語り、私たちに何を問いかけているのだろうか。

空き家が増えた要因については諸説あるが、私見では一番大きなテーマは、あと数年で国民の3人に1人が65歳以上になるという超高齢社会日本のリアルな現実の反映が強く働いていると思われる。そして日本の全世帯数の半分近くが高齢者を抱えているという、日本家族のこれからの問題と深くかかわっている。いま高齢社会の課題について詳しく述べる余裕はないが、私の気がかりは老人単独世帯の増加である。700万世帯が老人のひとり暮らしである。そして老夫婦のみの世帯が800万世帯あり、あわせて1、500万世帯が老人のみの世帯であるという事実。私も25年に及ぶ農山漁村の集落調査で多くのひとり暮らしの老人に会った。「この一週間、誰とも話をしていない」「時々、孤独死を連想するよ」「年を取ると雪下ろしが辛い」「時々、人とゆっくり話せる場が欲しいな」など、その心のうちを聞かせてもらった。振り返ればこの国の地域づくりは特産品や工場誘致など経済中心だった。これからは高齢社会を生き暮らす人々が抱えているさまざまな願いや希望、悩みや苦しみなど、その土地を生きてきた人々が抱えているテーマをしっかりと受け止め、より良き方向に変えるために、地域住民と同じ土地をともに生きる行政マンが連携した活動が地域づくりの基本になるのではあるまいか。