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「農」にこだわる町からの暖かい贈り物

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年11月23日

新学院大学名誉教授・とちぎ協働デザインリーグ理事 橋立 達夫(第3141号 令和2年11月23日​)

「水と空気のきれいな棚田から今年もおいしいお米をお届けします」という文とともに、栃木県茂木町からTKO米が届いた。八丁トンボが舞う棚田でとれたお米である。国連のPKO(平和維持活動)をもじって、「田んぼキーピングオペレーション」。谷戸の上流部で耕作放棄が起きるとその影響は下流の田んぼ全体に及ぶことから、都市住民の力を借りて耕作を維持している。発足以来20年以上続く活動のメンバーは楽しそうで生産技術も格段に進歩している。

茂木町は、34年前、町の中心部の2/3が2mも水没する大水害に見舞われた。しかしその復興の過程で生まれた「農村出会い塾」というまちおこしの勉強会から、徹底的に「農」にこだわるまちづくりが始まった。個々の集落ごとに特色を生かしたまちづくり事業を起こし、町全体を輝く集落の宝石箱にしようという「もてぎシャインズ」。ここから「ゆずの里かおり村」、「そばの里まぎの」、「かぐや姫の郷竹原」など、ユニークな集落活性化事業が生まれた。畜産廃棄物、家庭ごみに加え、もみがら、里山の落ち葉、間伐材のおが粉などを活用してたい肥を製造する有機物リサイクルセンター「美土里館」。ここからは、作る人、食べる人の健康、おいしい農産物、落ち葉掻きの復活による里山の保全など、「一石十鳥」ともいわれる効果が生まれている。「道の駅もてぎ」は、地産地消の核として、農家収入の改善に寄与している。誘致されたレーシングコースの「ツインリンクMotegi」も、里山の保全活用技術を町内に広げる役目を担っている。

このように、農村の生活に基盤を置いた事業が次々と行われたことにより、茂木町では、美しい棚田と里山、そして高齢者も若者も、ともにやりがいをもって行うことのできる農業が展開され、農村都市交流も盛んである。

届いた箱の中には、TKO米とともに、女性グループの作った味噌やうどん、町内で農村レストランを開いている女性たちによる干しシイタケやジャムなど、地域内の連携を示す物産も入っている。暖かい心が詰まった贈り物である。