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「おしゃれな農村づくり」とは?

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年10月12日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3136号 令和2年10月14日)

福岡県大木町の「道の駅おおき」内に、地産地消型レストラン「デリ&ビュフェくるるん」がある。地場食材を使った質の高い料理で町内外にファンの多い人気店だが、レストランに隣接して、し尿・生ごみ処理施設「循環センターくるるん」が建っているのには驚かされる。

なぜ、いわゆる“迷惑施設”の隣に交流拠点であるレストランを作ったのか。話は、同町が2000年に策定した「農業農村振興計画」に遡る。

同町は、筑後平野のほぼ中心にあり、もともとは米・麦・イグサが主要品目の純農村。その後、キノコやイチゴなど施設園芸の導入・産地化を進めてきたが、農業環境が厳しさを増す一方、久留米市や福岡市の通勤圏内として非農家住民が増加。同計画は、その状況下で作られている。タイトルは、「みどり豊かでおしゃれな農村づくり」だ。

“おしゃれ”とは何か。同計画策定の顧問だった熊野貞雄・熊本大学名誉教授は、基本テーマを「農とは、作ることである」と「かっこよく作ることはおしゃれである」に置いたと書いている。しかも、「作る」のは、農産物というモノだけでなく、風景、人間関係、食文化、暮らしのゆとり、都市住民やハンディを持つ人々への癒しやサービスとも。いわば、地域政策と農業を一体化した振興策だ。

循環センターと一体化した道の駅建設は、そのシンボルのひとつだ。もともと同町は、ごみ焼却処理を隣接市に委託しているが、ごみの増加とともに委託費が上昇。さらに国際条約により07年までで海洋への廃棄禁止が決定し、し尿処理を海洋投棄に頼っていた町は対応策を迫られていた。

そこで、家庭の生ごみを回収してバイオガスプラントで処理し、生成される液肥を農地還元し、生産された農産物を「道の駅」で販売・提供する資源循環のまちづくりを推進。08年に「大木町もったいない宣言(ゼロウェイスト宣言)」も公表した。

それにしても、この斬新な構想に、よく住民合意がとれたと思うが、町内49行政区ごとに、じっくり時間をかけて議論を重ねたと聞く。

「まちづくりは時間をかけるほど長持ちする」ーーある村長さんから聞いた言葉を改めて思い出した。