民俗研究家 結城 登美雄(第3120号・令和2年5月25日)
新型コロナウィルスの感染拡大が進行し、誰もが大きな不安を抱えて生きている。感染者数も世界規模で500万人を超える勢いで、死者も30万人以上を数え、これからさらに増えると予想されている。日本国内でも感染者は17、000人以上で、800人ほどの死者が出ている。そして、いつ収束するとの見通しが立たないすさまじい状況に、多くの人々が混乱し、悩み苦しんでいる。例えば、最前線の医療現場の苦闘。企業・経済活動の制約。休業要請される商工業。外出の自粛や3密への配慮。長引く学校の休校。イベントや文化活動の中止や制限。そしてあちこちから聞こえてくる倒産、解雇、失業を嘆く声。さらにはアルバイトの仕事を打ち切られ、退学を覚悟し揺れている学生の多さ。
この世の地獄ともいうべきこの事態は、おそらく戦後の日本社会において未曾有のことではないか。同時に、このコロナ危機は人々を恐怖に陥れたのみならず、この国の様々な領域が抱えている問題点をあらわにしたように思う。例えば、住民の暮らしの現場から遠い永田町や霞ヶ関の政官主導で推進される対策計画。これはいわゆる「アベノマスク」に代表されるように、地方現場の声を聴かず、有識者の思いつきをベースにした表層的・場当たり的政策の羅列とも言える。専門家の意見も大切だが、最も大切なのは、それぞれの土地を生きてきた現場の人々の思いや考えである。
いま、多くの地方現場では、過疎化、限界集落化はもちろんのこと、老人単独世帯の増加などにより、福祉、医療、介護、そして日常生活の支援やコミュニティの維持など、地域に内在する課題は多い。コロナ危機の長期化が懸念されている現在、これらの課題を解決していけるのは地域に住む人々の力と地方自治体とが連携・協働してつくる地域力である。
地域の民の声を受けとめ、それをまとめて国に訴える地方自治体の連携が今日の危機を希望に変える。住民と同じ現場を今日も生きる行政職員の心と力に期待したい。