ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 面談―声かけと対話を職場の習慣に

面談―声かけと対話を職場の習慣に

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年2月17日

東京大学名誉教授 大森 彌(第3110号 令和2年2月17日)

2018年4月施行の改正地方公務員法に基づき、すべての自治体は、人事評価(職員がその職務を遂行するにあたり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価)を「任用・給与・分限その他の人事管理の基礎として活用するものとする」ことになっている。これは自治体の規模の大小を問わない。この人事評価の仕組みとして重要なのは、被評価者が自らの業務遂行状況を振り返り自己申告を行い、評価者と被評価者が面談・話し合い、評価者が評価結果を被評価者に示し、以後の業務遂行にあたっての助言・指導を行う段階である。

職員数が少ない町村では、改まって面倒な評価制度を使わなくとも、日頃の仕事ぶりをみれば職員の出来不出来は判るし、本務で忙しい職場ではわざわざ面談する時間もとりにくく面と向かって話し合うことはないといった声がある。しかし、従来の不透明で時に恣意的な勤務評定を改善するためには客観的で公平な人事評価とその活用が必要である。その「肝」が面談・話し合いである。

人事評価制度でいう面談は、基本的には部下の目標の設定と達成に関して上司が評価を伝える場であるが、これを通じて上司は部下に対する理解度を高め、その指導のあり方を工夫し、部下の成長を促すことができる。上司は、面談を通じてはじめて、部下が考えていることが実は分かっていなかったことに気づくこともあるのである。

面談という手法を組織運営の習慣にすることも考えられる。ヤフーをはじめ民間企業では、「1on1ミーティング」と呼ばれる面談手法を導入し成果を上げている。週に1回30分程度、場所を確保し、部下の成長を支援することを目的に上司が部下の話を聞くというやり方である。1on1面談の効果は、上司が現場の状況を直接聞き取れば、現場への理解を深めることができると同時に、上司と部下の間の距離感が縮まり、コミュニケーションがとりやすくなり、仕事がスムーズに進むようになることであるといわれている。

1on1面談を導入する際には上司側には「そんな時間は捻出できない」「部下の愚痴を聞くはけ口になるだけだ」といった声があったという。しかし、部下がなぜ、突然会社を辞めてしまうのか、反抗的なのか、思うように動いてくれないのか、指示待ちなのかについての疑問を、面談を通じて、それらの原因や理由について理解が進んだという。

町村の役場では、ワンフロアがいくつかの課に分かれ、課がいくつかの係に分かれていて、空間的には一つ所に何人かの職員が机を並べ仕事をしている。いわゆる大部屋主義の職場風景である。職員は、係や課の任務の一部を分担しているから、それを滞りなく無難に処理すればいいと考えやすい。自分が分け持っている仕事は他の職員の助力なしでこなすことが了解事項となっているため、時に、問題が起こっていても、仕事を抱え込み、独りで悩み、肉体的にも精神的にも参ってしまう職員が出てくる。あるいは、他の職員が困っている様子、悩んでいる様子に気が付きながらも、見て見ぬ振りをすることが出てくる。このような事態を避けるために1on1面談をより簡便なやり方で行ってみてはどうであろうか。

大部屋主義は、所属組織の職員がワンチームとして任務遂行に当たる組織形態である。それを狭い分業・縦割りの意識で形骸化させないために声かけと対話を職場習慣にするのである。少なくとも週に一回は、「調子はどう。仕事の進み具合は。何か困りごとはない。」と上司が気軽に声をかける。町村役場のように少人数の職員がいくつもの業務を分担しなければならない職場では、特に上司は、日常的な声かけと対話によって、職場と職員の状況を的確に把握していることが求められている。こうした言葉の投げかけが部下への励ましになり、仕事の内容と運び方に関する工夫・改善の基礎となる。