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ふたつの地域間格差

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年2月10日

明治大学教授 小田切 徳美(第3109号 令和2年2月12日​

近年、地域間格差をめぐる議論が低調である。例えば、日本経済新聞のデータベースで、「地域(間)格差」という用語を検索すれば、2010年代の10年間で、313回の掲載が見られる。しかし、これは00年代の832回と比べれば6割以上減少している。つまり、「地方創生」は論じられても、地域間格差問題は社会の議論から後退している。

それは、地域間格差が解消し、その是正が必要でないことを意味しない。特に、新たな移動通信システムである5Gの整備では地域間格差を意識する必要がある。なぜならば、それが、注目されている自動運転のみならず、遠隔地医療や遠隔地教育を実現する基盤となる可能性もあるからである。そうであれば、5G整備は、単なる通信ではなく、生活交通、医療、教育等の地方部で深刻な問題領域に対するインフラ整備そのものである。その点で、受益人口が少ないという理由から、農山漁村における整備が後回しにされることは許されない。むしろ、人々が低密度で暮らすこの地域では、その条件不利性を埋めるために、整備が積極的に行われるべきであろう。

過疎法をはじめとする地域振興立法には、このような新たな大都市と地方の格差(新しいまち・むら格差)の発生防止を強く意識した対応が求められている。

他方で、「むら・むら格差」も顕在化している。筆者がしばしば強調するように、一部の地方部には、「にぎやかな過疎」と呼んでよい地域が生まれている。人口減少下でも、地域内では小さいながら新たな動きがたくさん起こり、移住者や関係人口を呼び込み、なにかガヤガヤしている地域である。しかし、こうした事例がある一方で、逆に、地域づくりに取り組めず、そのため移住者や関係人口にもアピールできない地域も依然として多い。その結果、最近、生じているのが、地方内部での大きな格差である。同じような条件の農山漁村や過疎地域の格差であることから、実は地域振興立法による格差是正策は、ここには大きな有効性を持たない。そこでは、「にぎやかな過疎」の横展開をサポートするような取組が求められている。今年から始まる第2次地方創生のポイントと言えよう。

このように、「新しいまち・むら格差」や「むら・むら格差」と形を変えてはいるが、地域間格差問題は依然として地域をめぐる議論の中心にあるべきものだろう。