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ボランティアの心

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年11月11日

福島大学教授 生源寺 眞一(第3101号 令和元年11月11日)

先月18日、都内で認定NPO法人「樹恩ネットワーク」の報告会が行われた。樹木の恩に感謝する気持ちを込めた名称であり、森づくりの体験プログラムである「森林の楽校」や農業を現場で応援する「田畑の楽校」など、さまざまな活動を農山村で展開している。もうひとつ、間伐材を活用して福祉施設で製造された「樹恩割り箸」の普及にも力を入れている。大学の食堂を中心に年間1300万膳が使われている。

樹恩は大学生協が母体となって設立されたNPO法人だが、現在は一般の市民の参加とともに、企業・団体、行政・自治体、地域生協などとの協力の輪も広がっている。そこで数年前から、こうした連携組織の関係者と一堂に会して、相互に活動報告を行う交流会を設けているわけである。樹恩の会長を拝命している小生も、勤務地の福島から馳せ参じた次第。

開会の挨拶をさせていただいた。時期が時期だけに台風19号に触れないわけにはいかない。お見舞いとともに、台風来襲後の日本社会の動き、なかでも急速に立ち上がるボランティアの活動と樹恩の誕生が重なって感じられるとも申し上げた。詳細は省くが、樹恩設立のきっかけは1995年の阪神淡路大震災だった。当時、仮設学生寮の建造で徳島県の林業関係者と大学生協が結ばれたことが、樹恩につながったのである。

1995年はボランティア元年とも呼ばれている。被災地の救済と復興に多くの市民が参加したことによる。1998年3月には、ボランティア団体の法的な地位を支える特定非営利活動促進法(NPO法)が制定された。樹恩の活動も当初からボランティア精神に基づいており、NPO法制定直後の98年4月に正式に設立される運びとなった。

台風19号だけではない。この国は自然の猛威に向き合う新たな時代を迎えている。国や自治体の役割が改めて問われ、専門家の英知も求められている。けれども同時に、ボランティアをはじめとする市民社会の立ち居振る舞いには、新たな時代を先取りする頼もしさを感じ取ることもできる。