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誇りを育む「海の牧場」と「海の学校」

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年7月1日

作新学院大学名誉教授・とちぎ協働デザインリーグ理事 橋立 達夫(第3086号 令和元年7月8日)

岩手県洋野町は、県の東北端、人口16,800人の町である。南は連続テレビ小説「あまちゃん」で話題となった久慈市、北は青森県八戸市に接する。東は北三陸リアス海岸、西は北上山地に至る広大な高原と山岳地帯を擁し、海の幸山の幸に恵まれた土地である。

この町の海の幸としてとくに有名なのは「海の牧場」というべきシステムで栽培されているウニである。陸上の水槽でふ化畜養されたウニを海に放流し、3年を経て出荷サイズに育ったところで採取する。そしてこれをさらに1年間、ウニ牧場に入れて肥育するのである。ウニ牧場は、浅瀬の岩棚に縦横に溝を掘ったもので、この溝の中で、日光を浴びて育つ豊富な海藻を食べウニは大きくおいしく育つ。震災で壊滅的な打撃を受けたウニ牧場だが、関係者の努力で復興し、地域の誇りとなる特産物「北紫雲丹」が育まれている。

さて、この町で、大手外食産業を辞めてUターンした若い女性を中心に、「北三陸うみの学校」の活動が始まった。地域の子供たちに、身近に海のある暮らしのすばらしさを体験、認識してもらおうという取組である。ご多分に洩れず少子高齢化が進んでいる上、子供たちは進学や就職で町外に出てしまい戻ってこないという状況の中で、水産業、水産加工業の後継者難が深刻であるというのが活動の発端であった。海辺の町でありながら、子供たちと海とのつながりが薄れている。

そのつながりを取り戻すところから始めようと、今年の3月に第1回の「北三陸うみの学校」が開催された。テーマは『きづく〜対話で知る人と地域の魅力〜』である。中高生を対象としたワークショップは、地元の漁業者である「海の匠たち」と地元の中高生が対話する教育プログラムとして実行された。復興の動きと相まって「北三陸うみの学校」の活動への共感は、町内外の産業振興や人材育成に関わる若い人達の中に広がっている。そしてこの取組は、単なる後継者対策という範囲を超えて、地域に暮らす歓びと誇りを揺り起こすという深みを備えつつある。