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小さな村から学んだこと

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年5月27日

民俗研究家 結城 登美雄(第3081号・令和元年5月27日)

東北地方を中心に中山間地域の小さな村々をたずね歩いてもうすぐ30年になる。たずねた集落は約600。実に多くの村人から大切なことを教えていただいた。過疎地、限界集落など、負の言葉で語られがちなこれらの地を、なぜたずね歩いたのか。それはこれらの村が人口は減ってもなぜ何百年も人間の暮らしと人生の場であり続けられたのか。その持続可能な力と心を確かめたいと思ったからである。そしてもうひとつ、これからの地域づくりにとって大切なものは何か。それを有識者や現場知らずの霞ヶ関の言説ではなく、小さな村を生き抜いてきた人々の悩みや願いを通じて直接に学びたいと思ったからである。

たくさんの村人が示してくれた意見を私なりに受けとめれば、それは「よい地域づくりの7つのテーマ」になると思われる。すなわち、①よい仕事づくり②よい居住環境づくり③よい文化づくり④よい学びの場づくり⑤よい仲間づくり⑥自然と風土の上手な活用⑦よい行政―の7つのテーマである。これを少し補足すれば、①は農林漁業などの生産を安定させること。この30年で急速に普及した農産物直売所は現場の実状に即応した希望の拠点だという。②は道路、上下水道などのインフラ整備。③の文化とは伝統的祭りのように村人みんなで楽しむ場を作ること。④の学びとは知識主義ではなく、地域で生きていくための知恵や身近な資源を生かすための技の習得。⑤は村人が最も大切だと強調するもの。人は一人では生きられない。共に支え合っていく隣人、友人の大切さ。⑥人間は自然と共に生きるもの。水・風・光・土を大切に持続可能な生存と生活の土台を築くこと。⑦主体なき地域づくりはない。よい村を作るのはそこに生きる村人が中心である。相変わらずの画一的行政施策の押しつけではなく、地域の人々の声に耳を傾け、その願いや悩みを受け止め、その活動に寄り添う行政でありたい。小さな村が静かに行政に問いかけている。