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民間事業者との関係をどう取り結ぶか

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年5月20日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3080号 令和元年5月20日)

住民ニーズが多様化し、行政に求められる役割が複雑化する中で、行政が単独でサービスのすべてを担うことはますます難しくなっている。業務委託や指定管理者制度の活用など、行政サービスの民営化が進められている。

民営化により、民間がもつ独自のノウハウや専門技術・情報網を活用して、より良いサービスをより安く、効率的に供給することが期待される。だが、そこには課題も多い。

第一に、採算性の確保が難しい地域には事業者は参入しない。不採算地域では行政が補助金や助成金を出す必要が生じることもある。第二に、事業者が利潤や採算性を重視し、画一的・均質的なサービス提供を行えば、地域のニーズに対応したきめ細かなサービスの確保が難しくなる恐れがある。実際に、直営事業を委託や指定管理に出したところ、事業者が採算性を理由に撤退したり、サービスの質の低下が問題になったという話も聞かれる。

住民生活に必要不可欠なサービスを安定的に確保できる仕組みを構築しようとすれば、行政と民間事業者の間で良好な関係を構築することが必要である。だが、補助金や規制などの「飴とムチ」だけで、良好な関係が構築できるものではない。

これに対し、独自の戦略を展開する自治体を訪れる機会を得た。奈良県川上村である。

川上村の人口は1313人で、急峻な斜面の中に集落が点在する吉野杉の産地である。この人口規模で地域内での生産や消費活動を維持できるのだろうかと思っていたところ、行政による、戦略的な民間経済活動の構築を通じた経済循環の維持・創出が図られており、驚嘆した。

村民の暮らしを維持するには消費環境を整える必要があるが、川上村では、たとえ外出が難しい人でも、日用品やガソリン・灯油などが調達できる環境が整う。そこで活躍するのが、村も出資して創設された一般社団法人かわかみらいふである。県内の生協やスーパーと提携して、商品の宅配や販売事業を担い、点在する集落を回る。各地区を訪問した際には、顔を合わせた住民の様子などを日報に記し、ケアが必要という場合にはすぐに関係機関につなぐ。ガソリンスタンド事業も担い、灯油の販売も行う。

規模拡大と流通ネットワーク構築で成長してきたスーパーなどが、採算の面で参入しづらい地域であっても、かわかみらいふが配達などの業務を担い、同時に住民の見守りも行う。それにより地域に雇用が生まれ、地域の暮らしを支える経済循環が維持される。

自治体が、域外の民間事業者に業務をアウトソーシングするのではなく、地域内に事業を創出し、域外事業者との良好な関係を構築する仕組みに、大いなる可能性を感じた。