ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > あらためて過疎地域を考える

あらためて過疎地域を考える

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年4月22日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸 (第3078号 平成30年4月22日)

この四月初め、総務省の過疎問題懇談会の議論の中間的整理「新たな過疎対策に向けて」がホームページで公表された。現行過疎法の期限まで2年となった時点での、これまでの議論の整理である。これには「持続可能な低密度地域社会の実現」という副題が付けられているが、ここには、過疎地域は人口減少・高齢化の中で厳しい地域経営を強いられてきたが、しかしその一方で、過疎地域の豊かな自然のもとでの低密度な暮らしに、高密な都市とは別の価値があるという主張が込められている。いま田園回帰と呼ばれる、地域おこし協力隊を始めとする都市の若者の地方移住の増加は、まさにそれを裏付ける事実と言えよう。

筆者は、いま座長を務めさせていただいているこの懇談会に20年余り前に参加させていただいたが、その時初めて過疎地域の役割に議論が及び、「風格ある国土の形成に寄与」「国民の新しい生活様式の実現の場」などの文言が、2000年の現行過疎法に書き込まれた。その後筆者は、自然を扱う巧みなワザ(人間論的価値)や、集落という地域社会で支え合うしくみ(社会論的価値)は都市では生まれない価値であり、これを、次世代が新たな機動力を上乗せして継承することによって新しい生活様式が育ち、豊かな先進的少数社会への道が開けると、繰り返し主張してきた。

昨年過疎対策室が行った過疎地域の社会的価値に関するアンケート調査でも、過疎地域の役割として、「食料や水の供給」「自然環境の保全」に次いで、「心のふるさと」が挙げられている。このことは、都市とは異なる価値を持つ地域社会の存続を求める人々が都市側にもかなりいることを示し、最初の過疎法からの生活インフラの格差是正に加えて、新たな過疎対策の必要性の強い論拠となり得る。

世界を歩いても、少数化した農山村の集落でお年寄りが笑顔で暮らしている国は稀である。このことこそ長年の過疎対策と住民の支え合いの立派な成果である。そしてそこに人材の育成と新たな機動力を上乗せする地域運営組織の育成があれば、これこそが自然との共生の中での、都市にはない価値の持続・増強に繋がる。そしてこの作業には、過疎ソフト事業が強い味方になるはずである。再生エネルギーの活用の可能性を考えても、過疎地域はまさに新しいコンセプトSDGsの牽引役となり得ると訴えたい。