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食料・農業・農村基本法20年

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年2月4日

明治大学教授 小田切 徳美(第3069号・平成31年2月4日)

今から20年前の1999年7月12日に、農業基本法が廃止され、食料・農業・農村基本法(新基本法)が生まれた。実は、その4日前の7月8日には、地方分権一括法も成立している。両者はこのように近しい関係にある。

そのためか、新基本法には、次のような条文がある。「国及び地方公共団体は、食料、農業及び農村に関する施策を講ずるにつき、相協力するとともに・・・」(同法37条)。国と地方自治体の関係が、あえて「相協力」と表現され、両者の対等な関係の必要性が意識的に書かれている。

分権改革までの農政は、特に中央集権傾向が強かった。それは、この分野の主な政策が食管制度をはじめとする価格政策や農地法等の統制的な農地制度が中心で、いずれも「国家一元的」なものであったからである。つまり、20世紀農政は国家の農政であり、地方自治体はその執行機関として位置づけられていた。それが、20年前に「相協力農政」として再スタートしたと言える。

その成果は直ちに生まれた。例えば、中山間地域対策として、新基本法制定の翌年に始まった中山間地域等直接支払い制度は、その基本的な仕組みである「集落協定」のあり方では、現場や地方自治体による創意工夫の余地が大きかった。それは「地方裁量主義」と呼ばれて、この制度をより良く運営するため、自治体関係者と国の担当者で多くの対話がなされていた。

しかし、この「相協力農政」が、最近では空洞化している。国の農政改革、特に農地中間管理機構の制度導入などにより、いつのまにか農政の中央集権的な体質が復活している。

この点をめぐり、町村職員の次のような声も聞こえてくる。「次々に出る新しい仕組みに対応するので精一杯」、「農政課の仕事は、制度の『調査もの』など、国から言われた仕事ばかりで、役所内では人気がない」。自治体内での農政関係の職員数の減少もあり、「少ない人員で、霞ヶ関ばかりを気にせざるを得ない傾向」が自治体に生まれているのではないか。自治体の農政職員の目線は、本来、地域農業・農村の現場にこそ注がれるべきであるが、そうではなくなっているのである。

現代の農政では、現場に近い自治体農政を中心として、それに寄り添い、励ますような国レベルの制度や政策が必要であろう。新基本法、分権一括法制定20周年の今、「相協力農政」の本格的創造が期待される。