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小・中学校という場所

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年11月12日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3061号 平成30年11月12日)

小・中学校は義務教育を提供する場所だと思っていたが、それだけではないようだ。小学校区・中学校区が自治の単位として一つのまとまりを形成し、多様な役割を担っていることを各地で見聞するうちに、学校は地域を支える大切な拠点であると感じるようになった。

確かに、同じ学び舎で学んだ経験を共有することの意味は大きいのかもしれない。学校は、多感な子ども時代を過ごす場所でもあり、時間の共有を通じて、子ども時代の「物語」が育まれる空間である。以前に、信州のある集落を訪れた際、小学校が統合されて学区が大きくなる前の世代と後の世代とでは、近隣集落との連携のしやすさが違うという話を聞いた。子ども時代の「物語」の共有は、大人になってからの関係をも規定するのだろう。

さらに、学校という場所で育まれる「物語」の共有は、子どもだけに留まらない。地区を挙げての運動会や文化祭が開催されるなど、地域文化の創造拠点としての機能を持ったり、大人が子どもを見守る「場」となることもある。このように、学校が教育施設であると同時に地域の「物語」を育み、共有する拠点であるとすれば、その再編・統廃合についても、複合的な視点からの検討が必要となる。

初等中等教育を効率的・効果的に提供するという視点から、統廃合を通じた規模拡大がしばしば指摘される。だが、学校での学びは、日々の暮らしから切り取られた形式的な技術修得と点数取りに置き換えられた瞬間に、輝きを失うこともある。日々の暮らしの中にある驚きや発見を昇華し、気付きや学びに繋げるには、暮らしと学びの結びつきが大切である。総合学習の取組みはそのためのものだが、これを成功させるには地域の協力が欠かせない。そう考えると、学校という施設空間がもつ教育機能を効果的に果たすうえでも、地域との関係を意識しておく必要がありそうだ。

安心安全な暮らしを育む地域づくりに向けて、子どもも大人も共に地域で学び合いながら、地域の物語を共有する機会をどう創出するかが問われている。小・中学校の再編・統廃合の検討には、学校教育サービスの効率的・効果的な提供体制を考えることも大切だ。だが、地域で子どもと大人が共に学び合い、「物語」を共有するというもう一つの役割について、その代替・補完の可能性を含めて慎重に検討する必要がある。公民館や図書館などの機能と役割を見直すことも考えられよう。

二〇〇〇年に全国で二万三八六一校あった公立小学校は、二〇一七年に一万九七九四校まで減少した。各地で廃校とその再利用が進む様子を見るにつけ、地域のなかで、子どもたちの学びを豊かに育む「場」と関係が継承されていくことを祈らずにはいられない。