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台風に負けなかった無農薬稲作

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年10月22日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章(第3058号 平成30年10月22日)

今年の日本列島は台風に翻弄された。9月には21号と24号が縦断。各地で強風が吹き荒れた。東京都心の9月の降水量は平年の1.7倍で、雨が降らなかったのはわずか3日だけだったそうだ。

農業への被害も大きかった。たとえば滋賀県では、ビニールハウスの損壊をはじめとする農業施設の被害が平成で最悪だったという。ぼくたちが無農薬稲作を行っている田んぼ(茨城県旧八郷町)も同様だ。天日乾燥していた稲架が強風で完全に倒れた。もちろん補強はしていたのだが…。自然に左右されるのが農業の常だから、文句を言っても仕方がない。ただ、運悪く倒れたのが日曜日で、現地の仲間からの連絡は月曜日。平日に修復できるメンバーは数少ないが、60代半ば以上のリタイア組で何とか立て直す。

その後は数日晴天が続き、10月上旬に脱穀。ところが、この日はなんと最高気温32度という異常な暑さで、へとへとに。最後まで天候異変にたたられたお米作りだった。

それでも、夏の暑さ(自然のお陰)や、水の深さをほぼ一定に保てたこと(素人なりの技の進歩)から草にもそれほど悩まされず、稲の生育は順調で、倒壊も乗り越えて収量は昨年を大きく上回った。今度は、売り先を開拓しなければならないという、うれしい悲鳴をあげることになる。

早速、販売チラシを作成し、仕事の合間にメールや電話をあちこちへ。ここで功を奏したのが、農薬や化学肥料を約30年間まったく使っていないという栽培方法、天日乾燥の美味しさ、さらに多くの友人たち、すなわち人間関係資本だ。地元産野菜や魚を活かした料理と純米酒が美味い行きつけの店では、大量に買っていただいた。それを知った田んぼ仲間の一人は大喜びだ。

「予約の取りにくい超人気店に、(私たちの)お米が入るなんて、夢のようです。絶対食べに行きます」

食べものにせよ、お酒にせよ、何らかの縁があるところに息の長い需要が生まれていく。こうした縁需をどう創りだすかが地域づくりのひとつのカギと言えるだろう。