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農村インバウンドと田園回帰

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年10月1日

明治大学教授 小田切 徳美(第3055号・平成30年10月1日)

「日本の農村に魅力を感じる外国人が、年間のべ3000人以上も私達の自転車ツアーを利用する。彼らにはなにげない農村風景が魅力的に映り、一番の人気者は田んぼに棲むカエルだ。」

「人口200人、平均年齢70歳の離島で、合同会社を作り、私を含めて、IターンやUターンの10名の若者が働いている。私達はこの島で6次産業を起こしている。それによりこの島の風景を継承したい」

前者は岐阜県飛騨市古川の山田拓さん((株)美ら地球CEO)、後者は山形県酒田市の離島・飛島の松本友哉さん(合とびしま副代表)の発言である。9月15日に開催された全国町村会・都市農村共生シンポジウム「田園回帰・インバウンドと農山村」のなかで語られた。

そのシンポのモチーフは山田さんが取り組む「農山漁村に向かうインバウンド」と松本さんのような「農山漁村に向かう若者」の動きが、実は同根ではないかというものであった。そして、両者をともに動かしているのが「農村価値」であり、彼らは「新しい価値発見者」である。そうであれば、この価値を再評価すべきではないかという意図で企画された。

シンポでは全国町村会の報告書『これからの地域づくりと農村価値創生―観光・交流を手がかりとして』も披露された。この報告書でも、新しい価値発見者の「動機と行動の中にわが国の将来を展望するヒントが確実にある。それは、経済的なものに置き換えることのできない、生き方に関わる価値を探し求め、都市と農山漁村が共生する新たな地域づくりへの胎動といえる」と論じている。

特に強調しているのは、外からの「たび」と内側の「くらし」の交わる「関わりの場」がこの農村価値をより豊かにすることである。また、そうした活動こそが「観光・交流」であり、より具体的には、地域サイドから、例えば地域の景観と食を磨く必要性などが提言されている。

近年、別々に注目される「農村インバウンド」と「若者の田園回帰」が、このように社会のひとつの大きな潮流の中で現れた傾向であるならば、インバウンドの受け入れや若者の移住促進は、農山漁村自治体にとっては当面する課題であると同時に、新しい社会づくりにも繋がる最重要の未来課題だと言えよう。斬新な視点からの問題提起ではないだろうか。地方版総合戦略の見直しなどにおいて、町村関係者の積極的な活用を期待したい。