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「仕事がない」からの脱却

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年6月22日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3043号 平成30年6月18日

最近、いわゆる「田園回帰」傾向が話題となるなかで、「現実は、人が来ても仕事などない」という批判を聞くことがある。その発言者には傾向があり、自治体幹部職員や議員などの発言頻度が高い。そうであるが故に、この「仕事がない」という発言は、責任ある者が、あたかも自らの無策を誇っているようで、筆者には違和感がある。

そうした中で、若者達は、むしろしたたかな対応を始めている。そこには、「新たに仕事を起こす」(起業化)、「古くからの仕事を新しい形で継ぐ」(継業化)、そして「多数の小さな仕事を組み合わせる」(多業化)というパターンが見られる。つまり、起業化、継業化、多業化により、「仕事がない」と言われるなかで、それを創り始めているのである。この中には、地元出身のUターン者もおり、必ずしも新規参入者の専売特許ではない。

これに加えて、注目したいのがサテライトオフィスである。それは、個人や会社が既存の仕事を外部から移すものであり、先ほどの伝でいけば「移業化」となろう。

ところが、サテライトオフィスの中心は小さな自営業であり、それではあまり意味がないという批判も聞く。かつての誘致工場と比較して、雇用規模を問題にしているのであろう。確かに、サテライトオフィスの中心的業種は、ITベンチャーやWeb制作ベンチャーであり、雇用吸収力は多くはない。しかし、例えば、徳島県美波町では、そうした人々が地域に入りこみ、事業を安定化させながら、新たにレストランや住民が集まるコミュニティスペースづくりに取り組んでいる。また、消防団や祭りの担い手としても活躍し始めている。それは持ち込む仕事がベースとなり、起業化や継業化と比較して、ある程度の安定性があることによる。さらに、サテライトオフィスに関心がある事業者は、そもそも地域との関係を持つことをひとつの目的にしているからである。

とはいうものの、確かに、このような起業化、継業化、多業化、移業化の動きが活発に見られる地域は、まだ少数派であろう。それを拡げるために、どうしたらしたら良いのかを各地で考えたい。少なくとも、自治体幹部が、「仕事がない」と嘆くだけでは事態は一歩も動かない。