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国東時間

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年4月20日

ジャーナリスト 松本 克夫(第3037号 平成30年4月16日)

大分県国東半島の旧安岐町(現国東市)にアキ工作社というユニークな会社がある。CTスキャンのように人体や動物を輪切りにしたうえで断面を重ねてマネキンやオブジェを造形する段ボールクラフトの会社である。中山間地の廃校舎を仕事場にしているから、一見したところ、とても世界を相手にものづくりをしている風には見えない。

創業者の松岡勇樹社長は、東日本大震災の後、「国東のような辺境の地の豊かさとは何か」と問い直してみた。「国東には国東固有の時間があるはずで、東京で流れている時間に合わせて仕事をしているのはおかしい」と気付いた松岡さんは、5年前に社員の賛同を得て週休3日制を導入した。3日連続で休めると、農家の社員も田植えや稲刈りを集中してやりやすい。結果的には、仕事の効率も上がり、売上げは伸びた。松岡さんは、「会社はもうけるのが目的ではありません。日々が楽しくなければ、命を切り売りしているようなものです。時間と金を交換しては駄目です」と持論を語る。国東時間は、金と交換できない掛け替えのないそこだけの時間のことである。

廃校舎の管理を引き受けている同社としては、周辺のコミュニティの衰えも見過ごせない。松岡さんは、住民同士のつながりを取り戻そうと、週休3日を活用し、「時祭(ときのまつり)」と称する新しい盆踊りイベントの創出にも取り組んだ。楽曲の創作は地元在住のアーティストである山中カメラさんに依頼した。松岡さんは、「会社も地域共同体の一つにならなければなりません」という。

その松岡さんから便りが届いた。4月1日から社名を何と国東時間株式会社に変更するという。「循環する時間」をテーマとした事業を地域の人々と創造していきたいとも記されていた。地域と一体となり、その土地固有の時間を生き、しかも世界を相手にする。これは未来の会社の姿ではないか。働き方改革よりはるかに魅力的な辺境の地の挑戦である。