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わが町で心豊かに暮らす

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年11月9日

 三重県東員町長三重県東員町長 水谷 俊郎

「素晴らしかった。」「感動して、泣けてきたよ。」たくさんの人がロビーに溢れ、なかなかその場を離れない、離れたくない、そんな光景がそこにありました。初めての東員町発ミュージカル公演終了後のことでした。

東員町は名古屋に近い“ちょっと田舎、ちょっと都会”といった小さな町です。これといった観光スポットもなく、これといった特産品もない中途半端な町かもしれません。そんな町が、今、子育て中の若い人にとって、住む場所として注目の町となっており、現実、町人口の2~3%に当たる若い層が毎年移住してきています。

東員町では“人”に投資する政策に取り組んでいます。町内には中学校2校、小学校6校がありますが、全ての小学校区に、認定子ども園の原型である幼保一体施設や学童保育所を設けており、子どもがいても安心して働いていただける環境を整えています。また、保育園から中学校まですべてを教育委員会の管轄化に置いているため、それぞれの園校の距離が近く、子どもがお母さんのお腹に宿ったときから中学校卒業まで、行政が責任をもってその子を育てるという「16年一貫教育」に取り組んでいます。

その中でも就学前の保育・教育は、人として育っていく過程で最も重要な時期と考えています。「喜び」「悲しみ」「怒り」などといった情動は、5歳くらいまでにその原型が形成されるという知見があり、乳幼時期の子どもの育ち方が特に重要であると考えています。また、子どもの貧困が近年の大きな社会問題となってきており、子どもが安心して育てられる環境づくりは行政の大きな役割です。そのため本町では、保育士正規率70%や5歳児幼稚園保育料の無償化などに取り組み、子育て環境の質の充実や保護者負担の軽減に取り組んでいます。

しかし、財政的に厳しさの増す昨今では、基礎自治体ができることには限界があります。そもそも、将来を担う子どもたちは、国が責任をもって育てるのが本筋であり、少なくとも3歳以上の子育て、教育は無償化、義務保育教育に移行するべきです。

日本の公的教育費及び子育て支援にかける財政出動は、先進国と言われる30数カ国の中で断トツに低い数字です。すでにイギリスやフランスなどでは3歳児以上の義務保育化が始まっています。さらに、義務保育の政策は、日本が抱える少子化対策にも有効に働くはずです。政府の決断が望まれます。

東員町では教育とともに、“文化”にも力を注いでいます。多くの町民の皆さんが様々な文化活動に取り組んでおり、そうした活動を通して、県下でも有数の健康長寿や素晴らしい作品が生まれています。

昨年は、三重県立美術館で「石垣定哉展」が開催され、県内外から多くの人が訪れました。また、数年前には、草間祥介氏の製作した大皿が天皇陛下からオランダ国王に贈られるという慶事がありました。お二人だけでなく、多くの町民の皆さんが本町の高い文化力を支えてくれています。

また、本町には、長年町民の手によって培われてきた芸能があります。飛龍太鼓、劇団いなべ川、子どもたちに読み聞かせをする朗読ひばりの会、平成とともに始まった、日本語で歌う東員日本の第九、七世松本幸四郎丈を顕彰するため始まった子ども歌舞伎、そして冒頭紹介した町民手づくりの市民ミュージカルなど、非常にレベルの高いパフォーマンスをしてくれる劇団などが活躍しています。

今、世界中で起こっている問題は、全てエネルギーに起因していると言っても過言ではありません。人口爆発、貧困、地域紛争、核兵器、地球温暖化を含む環境問題、経済問題などなど枚挙に暇がありません。その中で、唯一、人を傷つけないエネルギーが文化エネルギーであり、人の心や暮らしを豊かにしてくれます。これを磨き育てることは、世界平和につながっていくと確信し、東員町では文化の醸成に、町民みんなで取り組んでいます。