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夢しか実現するものはない ~一歩先ゆくまちを目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年7月10日

岩手県葛巻町長 鈴木 重男

 

北緯40度、岩手県の東北部にある葛巻町は、町の面積の86%を緑豊かな森林が占め、標高1,000m級の山々に囲まれた高原風土が漂う酪農と林業の町です。人口約6,400人、世帯数2,770世帯、高齢化率43.4%であり、町の持つ多面的な資源と機能を最大限に活用し「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」をキャッチフレーズに、山村でしかできないまちづくりに挑戦しています。

明治25年のホルスタイン種導入以来の歴史を誇る酪農は、先人のたゆまぬ努力と幾多の試練を乗り越え、東北一の酪農郷として発展を遂げてきました。改良増殖の努力を重ね、現在では乳牛飼養頭数約9,000頭までに拡大、「人より牛の多い町」として牛乳工場など酪農関連産業とともに町の雇用を支える基幹産業となっています。

冷涼な気候と山の恵みであるヤマブドウに着目したワインの製造も行っており、第三セクター(葛巻高原食品加工株式会社)が製造・販売する「くずまきワイン」は現在30種類の品揃えとなり、各種コンクールで上位の賞を受賞するなど県内外で高い評価をいただいています。

また、当町はエネルギー問題や地球温暖化などの環境問題にも積極的に取り組んできました。産業振興や環境問題の観点から環境負荷の小さい新エネルギーの導入を進めるため、平成11年3月に「新エネルギービジョン」を策定。風力や太陽光などの「天のめぐみ」、畜産ふん尿などの「地のめぐみ」、豊かな風土・文化を守り育てた「人のめぐみ」を基本理念の柱に据え、町民の理解を得ながら新エネルギーの導入を進めています。

このような地域の資源と機能を最大限に活用した取組が高く評価され、平成28年5月に開催された「第26回森と花の祭典みどりの感謝祭式典(農林水産省・林野庁、国土緑化推進機構など主催)」で、同祭典の名誉総裁 眞子内親王殿下ご出席のもと、県内初、自治体としては全国2番目に「みどりの文化賞」を受賞しました。

一方で、当町にも人口減少という荒波が押し寄せています。町の人口は昭和35年の15,964人をピークに、平成27年の国勢調査では6,344人となり、55年間で9,620人、約6割が減少し、県内では3番目の減少率となりました。今後も減少していくことが予想される中、永続的に発展するまちづくりを進めていくには一定規模の人口が必要です。産業振興や定住対策などで効果的な施策を実施するとともに、「葛巻にしかできない」「葛巻だからこそできる」取組を町民と行政の英知を結集し、挑戦しているところです。

平成28年4月、人口減少に迅速、積極的に対応するため、交流や移住定住などの政策を一体的に推進する「いらっしゃい葛巻推進室」を設置しました。町の「まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略」では、「子どもがいるファミリー層の年間3世帯移住」を目標に掲げ、U・Iターンの子育て向け「いらっしゃい住宅」を2棟建設しました。この住宅は、町外在住の子育て世帯を呼び込むため、一戸建て3LDKの新築物件を月額39,000円で貸し出し、概ね12年間の入居後、入居者が負担なく永住できるよう、今後、制度の創設をしていきたいと考えています。また、町外の子育て世帯や若年夫婦を対象に、移住を前提として新築または中古の居住用物件を町内に取得する場合、最大400万円を補助する事業も今年度スタートしています。さらには、乳幼児から高校生まで医療費の無料化、保育料の年長児及び第二子以降無料化などを実施し、若い方が町内で豊かに暮らすことができる環境づくりにも力を入れています。

21世紀の地球規模での課題とされる「食料・環境・エネルギー」の全てに貢献できるのは我々が住む山村です。山村が持つ機能と魅力を積極的に情報発信しながら、50年先も町民が町に誇りを持ち、この町に住んでいて良かったと思える葛巻であるために町民と行政が一体となった「協創のまちづくり」を進め、「夢しか実現するものはない」を信条に一歩先ゆくまちを目指して参ります。このことにより県内でも早期に人口がプラスに転じた町となり、多くの方から評価される「山村のモデル」となるよう今後も果敢に挑戦していく所存です。