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「Takaramono(タカラモノ)」

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年5月15日

新潟県津南町長 上村 憲司

 

津南町は、平成の大合併では町民とともに自律の道を選択した、全国で最も雪の多い人口1万人の小さな町です。

私は平成22年6月に津南町長に就任し、「第5次津南町総合振興計画」を策定する中で、「強くてどこよりもやさしいつなんづくり」に取り組む決意を表明しました。しかし、その矢先、平成23年3月に長野県北部地震に見舞われ、町内に甚大な被害が発生し、町民の生活にも大きな影響がありました。多くの皆様から励ましのお言葉やお見舞い、そして町民から勇気をいただく中、一丸となって復興に取り組んでまいりました。

復興が進む中、「強いつなんづくり」を進めるにあたり、この地域を「苗場山麓ジオパーク」として日本ジオパークへ登録することをひとつの柱とすることとしました。この地域には、河岸段丘をはじめとした世界的にも珍しい貴重な大地(ジオ)、生態(エコ)、雪国文化(カルチャー)があるのです。

日本ジオパークへの登録には、単に地質学的特徴があるだけでなく、地域として魅力を知り、保護を行う活動も重要であるとされています。こうした中で、津南小学校の子どもたちが6つのプロジェクトを立ち上げ、様々な形で苗場山麓ジオパークを応援してくれたのです。そのひとつとして、PRソング「Takaramono」が生まれました。「たった一つのタカラモノ 津南はただのいなかじゃないのさ あふれる自然の中 生まれた奇跡の大地 苗場山麓ジオパーク 僕らが津南の未来を創る」、私はこの歌を初めて聞いた時、嬉しさのあまり涙が止まりませんでした。自分たちが生まれ育つ津南町を宝物であると考え、自分たちがつなぎ、新しい未来を創る。これこそが、私のタカラモノであり、守っていかなければいけないものであると確信しました。この他にも認定に向けての動きが町内で次々と盛り上がりをみせ、平成26年12月に日本ジオパークへ登録されました。

タカラモノの視点は、これまで「やっかいなもの」であった「雪」を、「雪のお蔭で」と発想を変えさせるきっかけともなりました。雪を地域資源と考え、これを熱冷却に活用するデータセンターの誘致に成功しました。雪は、農産物にも活用され、冬季間に屋内に大量の雪を貯め、日本一の品質とされるユリ切り花カサブランカの出荷に活用したり、農産物を雪室に貯蔵することで付加価値(貯蔵により甘みが増加します)を加えたりすることも進められています。春先に雪の下から掘り起こす「雪下ニンジン」は、ニンジンとは信じがたい、甘さ、みずみずしさから毎年テレビにも取り上げられ、全国的にも認知度が上がっています。

雪はまた、豊富で清冽な水をこの地にもたらしてくれます。津南の水は軟水で、とてもまろやかな美味しい水です。水工場を誘致し、大手コンビニエンスストアの全国1万店超の店舗で「津南の天然水」が販売されています。雪由来の豊富な水は大地を潤し、魚沼コシヒカリを町独自の基準「津南町認証米」として栽培し、高い評価を得ています。

さらに、津南町の、そして私のタカラモノである子どもたちのために、「やさしいつなんづくり」も進めています。胎児から就労まで切れ目のない支援を実現するために、保育園の担当部署を教育委員会に移して、保育園と小学校はもちろん様々な子育て支援の連携を進める「育ネットつなん」を創設し、一貫した子育てのシステムを確立しています。小さな津南町だからできる、小さなソフト事業にも力を入れており、そのひとつ「早寝、早起き、朝ご飯」の取組の一部が評価され、平成29年3月に文部科学大臣表彰をいただきました。また、使用されていない教員住宅を活用し「子育て支援住宅」として活用したり、妊産婦医療費助成や高校卒業までの医療費助成を行ったり、支援策を拡大しています。

高齢化や人口減、厳しい経済情勢など、町のおかれた状況は決して楽観できるものではありません。しかし、これからも、町民と一丸となって、津南町のタカラモノを、守り、つなぎ、新しい未来を創造していきたいと考えております。