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ふるさと納税による地域への波及効果

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年10月17日

高知県奈半利町長 齊藤 一孝

 

奈半利町は、高知県東部に位置し、中核市高知市から東へ約60㎞、高知龍馬空港から車で1時間足らずの太平洋に面した温暖な人口3千人程度の小さなまちである。

かつては、町の西端を流れる奈半利川の河口で海運業が営まれ、近隣の山々から集められた魚梁瀬杉やヒノキなどを船で関西方面に運搬するなど大変栄えたまちであった。 奈半利町には隣接する田野町とともに、当時の豪商らの旧家の町並みが現在も保存されている。

土佐藩政時代には、木材を伐採するために加領郷(かりょうごう)地区を船着場として切り拓き、後に漁業が営まれ、カツオ漁や定置網漁の拠点として発展するなど、漁業も盛んなまちとして成長してきた。

当町の主要産業は、漁業、農業を中心とした一次産業であるが、近年では少子高齢化と都市部への人口流出により、人口減少に歯止めが効かず、結果的に深刻な担い手不足に陥る状況が続いている。 こういった課題を解決するべく、行政と住民組織が協力し、多様な産業施策・人材育成を行ってきたが、解決の糸口を掴む事ができない状況が続いていた。

そうした中、奮起を促す好機となったのは、平成20年度の国の税制改正によって誕生した「ふるさと納税制度」である。同制度は、「ふるさと」に貢献したい、「ふるさと」を応援したいという納税者の皆様の想いを、 居住地以外の地方公共団体へ寄附金という形でご負担頂いた時に、個人住民税等が軽減される制度である。

当町は、この制度を地方創生の起爆剤になると考え、制度が創設された平成20年度より各種の取組をスタートさせている。

この制度は、地方公共団体の意向により、寄附のお礼に地域の特産品を返礼品として寄附者に届ける仕組みが通例となっているが、一部の華美な返礼品を捉えて、 その趣旨から逸脱しているのではないかといった批判的な報道が出されている。確かに返礼品に魅力を感じ、寄附をする寄附者もいるが、 地域の貴重な財源として活用して貰いたいといった強い想いのある寄附者もいることも事実である。

このため、返礼品のみに焦点を当てるのでなく、「寄附先の自治体が制度を活用することでどのような恩恵を受け、どのように変わりつつあるのか」といった点をもっと評価するべきだと考える。

実際に当町では、この制度を活用することで、地域のモノが売れ、その事によって生産者や事業者の方々の生産意欲が向上するとともに、新たな雇用も生まれ、町全体にその活気が波及している。

この制度の一番の効果は、寄附者と寄附先の自治体が寄附をきっかけに結ばれ、その事が、地方の産業振興に大きく寄与し、地方創生のきっかけとなっているといった点である。

「何もしなければ何も始まらない」。地方は特にそういった言葉を投げかけられる事が多いが、同制度は正に「何かを始める、 地方が生まれ変わる」といった大きなきっかけを与えてくれる重要な制度であると強く感じている。

また、効果としてもう一点あげると、集められた寄附金が様々な行政施策に活用されているといった点である。

当町では、産業振興、福祉、教育といった多様な分野において頂いた寄附金を活用しており、返礼品の特産品を提供している生産者や事業者のみならず、その他の地域住民もその恩恵を受けている。 町全体に活気が出てきているのは、そういった多様な波及効果が要因であると考える。

ここまで、当町が抱える課題とその課題を解決するきっかけとなっているふるさと納税制度の取組における効果について述べさせて頂いたが、 同制度が地方にとってはなくてはならない存在となっている事は間違いない。こうした事から、今後の制度の継続と全国の地方自治体の更なる活性化を強く願うものである。