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「ふるさと住民票」で地域の再生を

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年9月26日

鳥取県日野町長 景山 享弘

 

●ふるさと住民票の提案

毎年7月第3土曜日は「ねう祭り」。今年も自治会や事業所連の踊りが練り歩き、旧出雲街道の根雨の街は露天をそぞろ歩く人達の声が夜遅くまで響いた。

日野町は鳥取県の西部、岡山との県境にあり人口は約3千4百だが、盆や正月は多くの人が帰省し町なかが大いに賑わう。町出身で米子のほか、大阪や東京など県外から帰る方も多い。 田畑や家、老親がいる、墓がある方も多いと聞く。

法令上は「住民」ではないが、ふるさと日野町に関心をお持ちだ。この方々との絆をより深め、外の目で意見を頂きふるさと日野町のまちづくりに参画いただこうと、 シンクタンク構想日本の指導のもと全国8自治体とともに「ふるさと住民票」をスタートした。本年2月、全国初となったふるさと住民カードの交付式はまずは着実なところからと関西在住のひの郷会と、 よなご日野郡人会の方々に呼び掛けた。

今後は、町内小中高の卒業生や通勤通学、さらには日野川のおしどり観察、たたら遺跡巡り、根雨まち歩き、宝仏山登山などを通じた日野町ファンにも広げていきたい。

 

●ふるさと住民票によるサービス

「ふるさと住民票」を登録した方には、広報誌の発送や、祭りや伝統行事への参加呼び掛け、文化センターなど公共施設の住民料金での利用、親等の介護関係書類の郵送登録、 町の計画や政策への意見募集(パブリックコメント)などを行うこととしている。近く日野町地方創生戦略の検証・見直しに意見を求める予定だ。 外部の目でふるさとに貴重な意見を寄せてもらえると期待している。秋には収穫祭に合わせて帰郷を呼びかけ交流会を行うことや、モニターとして町の新しい特産品に対する意見を募ることも考えている。

ただ、サービスを競い合う気はない。登録者の方にはふるさと日野町への意識を持っていただき、景品合戦でない本来の意味のふるさと納税や、 将来的にはUターンによる定住に結び付けることができればと思っている。

移住・定住といっても都市の人に移り住んでもらうことは簡単なことではない。町と関わりのある方々が現実的だ。 今年度予算で町出身者の子息やお孫さんに向けて給付型の奨学金(月一万円、返済なし)を始め、孫ターンを呼び掛けている。町とのつながりやまちづくりへの関わりを深める中で、 将来の移住・定住に結びつけばと思っている。

 

●ふるさと住民票の制度設計

現代社会では複数の自治体と関わりを持ち生活する人も多い。仕事の都合で複数居住する人、親の介護で複数の地域を行き来する人、災害のため元の居住地を離れ避難生活を続ける人など様々である。 一つの自治体に住民登録し税金を払いサービスを受ける単線的な関係でなく複線的な関係が求められているといえる。原発事故からの避難が長引く福島県で二重住民票が議論されたが、 法改正を求めても進まないならば現行法の範囲内で先ずは自治体が出来ることをやってみようと考えたものである。

 

●真の地域再生のために

国が打ち出した「地方創生」で全国の自治体が総合戦略を立てているが、全体の人口が減少する中で人口を奪い合う自治体間競争に陥っている。 結果として多くの地域で目標達成が危うくなる人口の奪い合いでなく、地に足をつけ持続可能な地域づくり戦略を打ち立てることが必要だ。 わが町には自分のふるさとを思い知恵を貸してくれる人がこれだけいるという競争、これは人口の奪い合いと違って有意義な競い合いではないか。「ふるさと住民票」は不毛な自治体間競争から抜け出す一つのきっかけにもなると考える。

「地方創生」で国の出す方針や見解ばかり気にする自治体が増えている気がしてならない。 自治と分権をめざし時に国とも戦って来た十数年来の地方分権改革は何処へ行ったのか。「ふるさと住民票」は国からでなく、 住民や自治体の日々の営みの中で必要性から生まれたものである。「ふるさと住民票」という地方発の制度を、志を同じくする全国の自治体と協調し、 また競いながら真の地域再生につなげていきたいと強く思っている。