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平凡のうちに非凡あり

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年9月19日

北海道上ノ国町長 工藤 昇

 

上ノ国町は、北海道南西部の日本海側に位置しております。観光地として名前を売っている江差町と松前町に挟まれておりますので、上ノ国町を紹介するときは、必ず、両町との位置関係から説明いたします。 歴史的には、北海道中世史の国指定史跡等を多数有しており、面積は546k㎡と広い方ですが、人口は最盛期の3分の1の5,200人であります。主産業の第1次産業でありますが、農業は十勝のような大規模農家ではなく、 東北地方の延長のような規模であり、漁業に至っては、北海道の中で一番漁獲量が低迷しております。そのため、産業があまりぱっとしないこともあって、少子高齢化の波は予想を超えたスピードで押し寄せてきております。

そのような中、私は48歳で町長に就任し、現在4期目を折り返したところであります。町長就任後の初仕事は合併協議で終始し、近隣4町で法定協議会まで設立しましたが、最終的に自立の道を選択いたしました。 自立の道を選択したとなると、当然ながら財政健全化を第一主題として取り組むことが必要となりました。財政健全化は「入りを図って出ずるを制す」であり、いかに支出を減らすかにつきます。しかし、 支出を減らすことも大切ではありますが、支出を減らした結果、役場だけが残って町民がいなくなるという本末転倒の可能性も起こりうるので、第一次産業の農業・漁業には思い切った予算付けをし、 その他については、徹底的な見直しを行いました。ある団体の来賓挨拶を依頼されたので、来賓席に座っていると、案内した団体長の「どこの町でも町から補助金をいただいているのに、 上ノ国町だけは補助金を廃止した」という痛烈な批判の後の挨拶は、正直、きつかったことを今更ながら思い出します。またある町民からは、 町長が来ると「カット」か「廃止」か「削減」の言葉よりないのかという批判も受けましたが、5年間という期間を区切っての財政再建は予定通り行われ、無事、財政難の危機を乗り切ることができました。 不思議なもので、財政再建を果たすことができると、今まで批判していた町民も「私も賛成していた」という趣旨の発言に変わります。

さて、町の財政難を人間に喩えると、不要な贅肉をとったあと、いかに良質な筋肉をつけて健全な身体にするかということでありますが、最初に打った政策は、18歳までの医療費を無料にすることでした。 ご承知の通り、都市と地方の所得水準には格段の差があります。私たちのような地方には所得水準の低い建設業従事者が多いわけでありますが、結婚して子どもを大学まで仕込むとなると、 相当な不安感の中での子育てになるため、その不安感を解消する手立てとして思い切った医療費の無料化を実施しました。驚いたことに、どこの町でもやっているだろうと思っていた政策でありましたが、 全国で初めての試みということからテレビや新聞の取材を受けました。現在は保育料、小中学校の給食費も無料にしております。そのほかには、農業や漁業の生産設備を上限を設けたなかでの補助。 また、町内に大企業はなく、水産加工や製材所等の小さな企業がそれなりの雇用をしてくれておりますが、どこも経営難で設備投資に向けるお金が捻出できないために、 このまま推移すると廃業せざるを得ないという声が聞こえてきたので、ここにも、上限15,000千円の補助金を設けました。しかし、弊害が出てきております。それは、町民にもらい癖がついてしまうことです。 これから補助金を検討する段階でそのことも考慮しなければと考えております。

今、地方創生の大号令のもと、全国の市町村がどこにもないようなまちづくりに腐心しております。しかし、国のいうアイデア勝負が本当のまちづくりかというと、私は疑問に思っています。 本来の地方創生とは、主役を町民とした日々の業務を着実に積み重ねることではないでしょうか。