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群星(むるぶし)を見守る

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月20日

沖縄県座間味村長 宮里 哲

 

沖縄本島那覇市から西へ40㎞、高速船で1時間という地理的な利便と、島々がつくる波静かな内海。この地形を生かした座間味村は、かつては琉球王府による唐船貿易の中継地として栄え、 海事にたけた私たちの祖先は、進貢船の船乗り、さらには船頭職として、王府の理念たる万国津梁の一端を担っていました。

20世紀の幕開けと共に、座間味村では沖縄初の本格的な鰹漁業が創業され、製糖に次ぐ本県の産業として沖縄全土に広がりました。進取の気性に富む村民性は、沖縄戦で米軍初の上陸地となった戦禍を乗り越え、 先人から受け継いだこの美しい海と島は2014年3月に「慶良間諸島国立公園」に指定されました。 減少傾向にあった入域観光客数も平成27年には初の年間10万人を突破するなど国立公園指定は観光産業の活性化に大きく寄与しています。

島にUターンする若者、そして美しい海に魅かれた移住者は、この素晴らしい自然環境での生活と島人の優しさにふれ、素敵なパートナーと出会い、新たな家族が誕生します。

自然に寄り添う島での暮らしは都市部にはない豊かさがありますが、家族が増えるに従い、子育てコストの家計への影響や医療や福祉の課題も増え、都市部との格差は顕著であります。 沖縄ではこれらの離島苦を「島チャビ」と表現します。

人口減少(過疎化)の歯止めにもつながる島チャビの解消は、3人の子を持つ親として私のライフワークであり、私の行政運営の大きな柱となっています。

本村の子供たちは夏の夜の海で幻想的なサンゴの産卵を観察したり天然記念物のケラマジカの生態研究や、サバニという木の小船を漕ぎ40㎞の大海原を渡ったりと素晴らしい自然環境で学んでいます。

しかし、島には高等学校がありません。寮を併設している県内の高等学校は数校ですのでほとんどの子供たちはアパートを借りて生活することとなり、その結果15歳の巣立ちは親にとっては経済的な負担に、 子供にとっては精神的な不安となります。母親が長子の進学に合わせて下の子らを連れ沖縄本島に出ていく家庭も増えてきました。

「経済的・精神的負担はどうすれば解消できるか。そして一緒に島を出た下の子は島での思い出を作ることもできず、その子の故郷は沖縄本島になってしまう。 将来この子供たちがはたして島に帰ってきてくれるだろうか」という親としての想い、そして「生徒数の減少が複式学級を作りそれに伴う教職員の減少につながるなど人口減少は負のスパイラルに陥っている」状況に、 村長就任以来危機感を持ち続けていました。

私も所属する沖縄本島南部地域の7つの小規模離島自治体の首長・議長で構成される「沖縄県南部離島町村長議長連絡協議会」の会長からの発言もあり、すべてのメンバーが同じ想いを抱えていることがわかり、 これをきっかけに平成24年3月には県知事、県教育長、県議会議長への要請活動を行いました。

この活動は、やがてマスコミでも取り上げられるようになります。

新聞では「高校進学離島に苦痛」、「仕送り10万円超36%」、「アパートに居住57%」などという活字が並び「15の春」というタイトルで離島の現状を伝えるようになりました。

あれから数年たった今年の1月、寮生活を送る子供たちを星に例えて命名された「群星寮(むるぶしりょう)」には離島の子供たちが多く入寮することができました。皆、元気に寮生活を送っていると聞いています。

想いは形になりました。しかしこれがスタートです。

経済的負担の軽減、精神的負担の軽減、そして島チャビの解消と人口減少の歯止めとなるのか…。これからも群星寮を見守りつつ、島チャビの解消のため新たな施策を展開していきたいと思っております。

 

※群生寮(むるぶしりょう)とは
高校のない離島出身者の経済的負担を軽減するとともに、離島振興に資するため、高校進学する際の生徒の寄宿舎(学生寮)と小・中・高校生の交流拠点としての機能を併せ持つ施設。