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雑感 「知足」

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年3月14日

兵庫県佐用町長 庵逧 典章

 

 私は昭和24年生まれ、戦後の団塊世代であります。物心ついてから60年余り、日本の歴史において20世紀後半は最も大きな変革の時代であり、急激な経済発展によって日本社会が大きく変貌するなかで、 それを必然的な時代の流れとして今日まで人生を歩んできたように思います。子供の頃の農山村は国の食料とエネルギーを支え、その資源の供給地域として、 その時代の中では豊かで活気ある生活が営まれていました。私もその資源によって育てられ都会の学校にも行かせてもらえたと思います。

学校を卒業して民間企業で10年勤めた後に故郷に帰り、以来町役場で地方行政に携わってきました。それから早や33年、山林は荒廃し人々の生活の有様も町の姿も大きく変わり、 町行政の仕事も課題も次々と増え複雑になりました。私は建築技術職として町の公共施設の計画、設計から維持管理を担うと同時に企画担当として総合計画から財政まで町行政全てに関わり、 その延長線で助役、町長として務めてきたところです。

33年間を振り返ってみると毎年いろんな出来事があり、多くの事業を行ってきました。10年前には町合併も成し遂げ、6年前には町の歴史上最悪の大水害にも襲われ人生で二度と味わいたくない苦労もしましたが、 500億円を超える河川の大規模改修工事も間もなく完成します。これまでの主だった事業を思い浮かべても、インフラ整備として生活道路はすべて舗装し、各家々まで車が入れるよう改良も行いました。 水道は全戸に行き渡り下水道と合併浄化槽によって山奥の家まで水洗トイレとなり、今では学校、保育園までウォシュレットになりました。文化センター、図書館、音楽ホールなどの文化施設、温水プール、 体育館、屋内ゲートボール場、野球場などのスポーツ施設も整え、学校や園舎などの教育施設も全て整備が出来ました。町内の交通もコミュニティーバスの運行と併せて町内全域でデマンドバスを運行し、 タクシー運賃の半額補助まで行っています。

子育て支援についても、子育て支援センターを建設し、医療費の無料、保育園、学童保育は第2子以降全て無料、学校給食費は半額補助、学校での副教材費も無料とし、町民の医療においても予防接種の補助、 国保会計への1億円近い一般会計からの繰入れなど数えあげたらきりがないほど、昔と比べて手厚い行政サービスを行っていますが、出生率は上がらず人口は減り続けています。 それでも行政サービスを後退させることはできず、これを実施する町予算は今年も一般会計で130億円にのぼり、その中で自主財源である町税は20億円ほどしかありません。

合併して町面積は300k㎡と広くなりました。人口が18,000人を割る町でこれだけ事業を行い、行政サービスができることを不思議に感じますが、町民からは国保税や介護保険料が高いと言われ、 町としても国に対して地方財政の充実を要求し続けていますが、実際これだけの行政が行える日本はすばらしい国だと思いますし、この時代に生まれたことに感謝しなければならないと思います。

一方、国民として国の状況を見たとき、1,000兆円を超える借金がある中で、なお借金をしながら国の隅々まで公平な行政サービスが行えるお金が市町村に交付される、 こんなにありがたい国は世界の中でも数少なく、国民も生活が昔と比べて、これほど豊かで便利になったことは身をもって理解しているはずですが、豊かさへの追求と行政への要求は際限がありません。 しかし、少子高齢化はまだまだ進み、人口は急激に確実に減っていきます。国力も減退し国の借金にも限界があります。また地球の温暖化もますます進み、生命の危機さえ叫ばれ、温暖化ガスの削減は待ったなしです。

今以上の豊かさを追求することが幸せにつながるのか?本当に大切なことを犠牲にして経済発展を求めることが幸せにつながるのか?これ以上の行政サービスを充実することが本当の住民福祉の向上になるのか? もうそろそろ“足るを知り、以って自らを誡めなければならない時”だと思うこの頃であります。