三重県大台町長 尾上 武義
「やってみなはれ」
過疎の村の宮川村長として、合併後は過疎の町の大台町長として職員にいつも言っている私の信条であり、座右の銘です。
ある講演会で、ウイスキーで有名なサントリー創業者である鳥井伸治郎氏が、「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」と部下を叱咤激励し、自らも挑戦したと聴き、大きな感銘を受けました。 受け売りですが、その言葉を私も使わせていただいています。何事もやってみないと分かりません。やはり、「やってみなはれ」です。
さて、大台町は、平成23年の秋に環境省が地球温暖化対策の一つとして取り組んでいますJ -VER制度による認証を取得し、町有林が吸収した二酸化炭素(CO2)を売却しています。この取組で、 大台町を大きく宣伝していただきました。事の発端は、早稲田大学人間科学部天野研究室が宮川村に入り、フィールドワークを通じて地域の活性化を提言していただくという取り組みがあり、 その研究室の卒業生からの「二酸化炭素の吸収量を売りませんか」という一本のメールでした。人の縁と言うのは不思議なものです。何のことかさっぱり分からず五里霧中での「やってみなはれ」でした。 目に見えない空気が売れる。考えられないことです。
でも、空気が売れたのです。
また、大台町では水も売っています。
平成5年当時、まちの30~40代の若者27名によってつくられた「森と水を守る会」が、国の補助金を受けて水の工場を完成させました。この会の発足のもととなったのは、 建設省が行った全国1級河川の中で「宮川」が水質日本一に輝き、これを契機に何かできないかと立ちあがったことにあります。スタートしたばかりの夏は、当時まれにみる異常気象による水不足の年であったことと、 三重県で世界祝祭博覧会「まつり博三重」が開催されたことで、その水を提供することにより「森の番人」という名前が浸透し、順調なスタートを切らせていただきました。この会は、 単に水を商品として販売するだけでなく、水資源を守る運動や人のネットワークづくりなど、地域づくりの一翼も担っています。ありがたいことです。お陰で今も宮川は水質日本一です。
水と空気。地域資源はまだまだあります。無尽蔵です。次は何が売れるか非常に楽しみです。「やってみなはれ」です。
今年度ノーベル医学生理学賞を受賞された大村智先生もその経験をもとにおっしゃっています。「今の若いもんはというと怒られるかも知れんが、失敗を恐れず挑戦して欲しい」と。
これも「やってみなはれ」です。
最後に、この紙面をお借りしお礼を申し上げます。
宮川村長であった平成16年に紀伊半島を襲った集中豪雨により、村では最大時間雨量131㎜と言う記録的な雨量となり、村全体が大災害に見舞われました。死者6名、行方不明1名という痛ましい惨事となりました。 分からなかったとはいえ、災害に強い村と言う固定観念があり、避難の発令が遅れました。今でも悔やまれてなりません。この先も忘れることはないでしょう。
その際、ボランティアの皆様をはじめ、全国各地から多くの温かいご厚情を頂戴しました。本当にありがとうございました。改めて厚く御礼申し上げます。