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働き方の改革は人口減少対策の枢要~東京の地下鉄で考えたこと~

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年9月7日

宮城県大河原町長 伊勢 敏

 

大河原町は宮城県南部に位置し、蔵王山系を眺め、市街地の中央を白石川が流れる。春には「日本さくら名所百選」に選ばれた「一目千本桜」が白石川土手沿いに咲き誇る。

 

町長就任以降、町民人口の増減に一喜一憂、2年10カ月余り経った。本年8月の人口は23,734人。23,853人を記録した昨年7月がピークとなる可能性が高い。

本年も7月、宮城県町村会による政府与党への陳情行動への参加などのため上京した。久しぶりに朝の通勤時間帯に地下鉄に乗車した。疲れた表情のサラリーマンで満員だった。夕方もほぼ同じ光景だった。

この光景は、平成7年までの約20年間、千葉県松戸市や埼玉県三郷市の自宅から勤務地の東京都港区まで約50分乗車した通勤電車で目にした光景と異なっていた。相変わらず満員だが、 女性の割合が明らかに高いと思った。そこで、視野に入る範囲で車中の男女の割合を、停車駅で乗客が入れ替わるたびに計算、毎回ほぼハーフ&ハーフだった。

夫婦が2人とも、通勤の往復で満員電車に長時間揺られ、フルタイマーで働くという生活環境で、どのようにして子どもが育てられるのか、改めて疑問に思った。

地方の多くの女性は就職を機に大都会に転出する。東京などに行けば給料も高く、便利で、楽しく暮らすためのものは何でもそろっている。しかし、「故郷を離れ、私はいま幸せ?」、 疲れた表情の裏にはそんな思いが潜んでいるのではないか、と推測せざるを得なかった。

仕事に追われ、仕事と家庭を両立させる自信を失い、家庭を築こうというインセンティブが減退するのは当然であろう。子育てに要する体力と時間に余裕が少なく、女性への負担が大きい我が国では、 とくに女性が結婚の回避、非婚を選択せざるを得ない状況が進行してきた。

平成26年の全国の合計特殊出生率は1.42、これに対し東京都はわずか1.15、私が目にした満員の地下鉄での光景は、20代、30代のいわゆる出産適齢期の女性が非婚を選択する背景や原因を如実に物語っている。 まさに、日本の縮図ともいえよう。

上記の推測「故郷を離れ、私はいま幸せ?」との思いを、日本人全体が共有すべきだと思う。とくに、行政に携わる者としては共有したい。

少子化が始まった1970年頃から未婚率の上昇が始まり、これらはほぼパラレルに進行してきたことから、非婚が選択される理由がしっかり把握されなければならない。

非婚を選ぶ理由は、長時間労働のほかにも、非正規労働による低所得など様々あることは事実だ。

しかし、欧州先進諸国の多くが、第二次石油ショック以降進めてきたワークシェアリングの“副産物”として仕事と家庭が両立しやすくなった結果、出生率を回復してきた事実から、 長時間労働の改革が最大の課題だと言えよう。ワークライフバランスの推進こそが最優先されなければならないと考える。

このような観点から、本町は平成26年度に、短時間勤務社員制度を推進する企業を支援する助成制度「家族に優しい働き方支援事業」(国の助成制度の上乗せ)を制度化した。 国の助成制度の普及がままならず、残念ながら、制度を活用する企業はまだない。

224万人もの失業者(本年6月)がある一方で過労死が併存し、人件費削減を正当化する非正規労働が蔓延する奇妙な日本社会。もっと、人間らしい働き方ができないものなのか、改善の余地は大きい。

面積や資源から、人口は減少しても構わない。少子化の最大の問題は、そのスピードである。従属人口を支えられる生産人口を維持しながら、徐々に出生率が回復し、理想的な人口に落ち着けばよいと考える。

頑張る地方が救われるだけでは、人口の偏在及び我が国全体としての出生率の回復は不可能だ。

職業は人に誇り、尊厳、自尊心を与える。長時間労働を改善し、若者が魅力を感じる職場に満ちた地方を創造し、すべての日本人が、誇り、尊厳、自尊心並びに幸せを分かち合える社会を築くため、 国・地方・企業が同じ方向を向くことが少子化対策の枢要である、と考える。