ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村長随想 > 「食と観光」で輝く町づくり

「食と観光」で輝く町づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年12月15日

岩手県西和賀町長 細井 洋行

 

西和賀町は、岩手県の南西部にあって秋田県に接し、和賀岳や南本内岳などを有する奥羽山脈に囲まれた盆地にあります。総面積は590k㎡で、東西に20㎞、南北に50㎞の広がりがあり、 全面積の84%が山林原野となっています。地勢はおおむね急峻であり、標高250メートルから440メートルの高原性盆地で、一冬に平均10メートルの降雪量を記録する特別豪雪地帯です。

平成17年11月、旧湯田町と旧沢内村が合併して誕生した町ですが、現在人口約6300人であり、人口規模ではなく、地域性を重視した町づくりを志向した町です。合併前の旧町村が、 それぞれ豊かな温泉と農業を主たる産業としていたことから、その特長に磨きをかけた産業振興をめざし、6次産業の推進による「食と観光」に地域の輝きを見いだす取り組みを進めています。

具体的には、6次産業推進センターを立ち上げ、事業をスタートしました。推進特命担当として町職員2名を派遣し、 町の第3セクターである「西和賀産業公社」の取り組み事業を強化推進する形をとっています。最初に手がけたのは、従来から圧倒的に評価の高かった山菜群の中でも、 特に評判の『西わらび』の生産と販売の拡大です。従来の山採りだけでは産業になりえず、栽培を手がけました。当地のわらびにも数種類の系統があり、実証試験を繰り返し、 その中で特に評価の高い根茎にしぼって普及拡大する方法をとっています。他の生産地のわらびの倍の値段で引き合いがあり、生産者がここ4年で5倍に増えました。 しかしまだまだ研究途上ではあり、生産が需要に追いついていないという課題があります。

1年の半分近くが雪に覆われる地域ですので、地味ではありますが気候風土の中に豊かな食文化を育んでいます。 それらに磨きをかけ商品化することで地域に活力をもたらそうとする6次産業の取り組みは、地域にやり甲斐という喜びをもたらしています。西和賀の自慢の「大根の一本漬け」は、かつては冬期限定で、 隣近所で分け合って食べる程度のものでしかありませんでした。これを発泡スチロール箱に、当地の豊富な“雪”詰めで受注・発送を始めたところ、産業公社の扱い量で、 それまでの500本から一気に15000本に拡大したのです。大根の生産を引き受けた集落のお年寄りたちには想定外の仕事が舞い込みました。大根の生産には自信のある年配者も、 これまで自分の作った大根が売れるという経験はほとんどなかったのです。農作業に対する対価はさほどではありませんが、 自分たちの生産物が喜んで買っていただけることに生きがいを感じ取った瞬間でした。年に一度、集落内にテントを張って直売をします。 集落のリーダーが「おらほの80歳になる“ばっぱ”だちが笑顔で『いらっしゃいませ』と言うようになった」と驚いています。6次産業がもたらした副産物ならぬ、何にも変えがたい輝きではないでしょうか。

日本創成会議が発表した数値が注目され、世の中が大騒ぎになっています。岩手県で最も高齢化率と人口減少率の高い西和賀町。若い女性の減少で最も早く消滅するとの予想を覆す奇策は如何に? 難しい課題ではありますが、如何にあろうと、地域の特性と人間の生き様以外のところに道を探しても、近道などあり得ないように思えてなりません。

5年前に西和賀町長に就任し、「21世紀は食糧とエネルギー」との課題を訴えました。よもやの東日本大震災を経験した日本は、この歴史的事実から得た教訓を、 将来のために確実に役立てるという覚悟を認識できたのでしょうか。小さなことにも、ものごとの価値を見いだせる社会でありたいと思うのであります。