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太良町の森つくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年10月27日

佐賀県太良町長 岩島 正昭

 

【月の引力が見えるまち】

太良町は、佐賀県の西南端に位置し、東は干潟日本一で干満の差6mにも及ぶ有明海に面し、西南は長崎県との県境に接する地域で、北西に多良岳山系の県下最高峰の経ヶ岳を望み、山の幸、 海の幸の豊かな産物に恵まれた町です。

町の総面積は7,421ha、森林面積は4,152haあり、そのうち1,542haが町有林となっています。

肥前風土記によれば、景行天皇行幸のおり当町をご覧になって、海産物に富み、土地肥沃で食糧が豊かであることから、「豊足(たらい)ノ村」と名付けられたと伝えられています。

当町は、元々旧諫早藩に属していましたが、明治22年町村制施行にあたり多良村、大浦村、七浦村となり、多良村は昭和28年4月町制をしいて多良町となりました。

その後、昭和30年2月11日に旧多良町と大浦村が合併して太良町となり同年3月に七浦村の一部を編入し、現在に至っています。

【森林公有化の取り組み】

太良町は昭和37年の大水害、昭和41年の大かんばつ等、度重なる災害に見舞われてきました。

歴代町長はそれらの災害に学び、町民の安全、安心な生活を守るために水資源確保や治山治水施策を重要視され、国県の支援を受けながら森林整備を進めてこられました。

近年、水不足や洪水等の大きな災害が発生していないのは先人の努力の賜物であります。

当町においては、私たちにとって貴重な森林を公有化し大切に管理していく事業に取り組んでまいりました。

平成5年から平成15年にかけて民有林を約410ha取得し、平成20年には県の環境税による補助事業にて民有林約350haを取得しました。これは、資産としての山林取得という目的だけではありません。

森林の木々は、根を深く張ることで土石を押さえるとともに、枝葉・落ち葉・下草により保水して急激な水の流出を抑え、土石流や洪水などの発生を防止しています。

また、森林に降った雨は、すぐに森林から流れ出ることはなく幹をつたわり、土壌に浸透し濾過されることにより、おいしい水を創っています。

さらに、森林は、心身を休養するレクリエーション・教育の場、優れた景観などを提供してくれます。このような森林が持つ多面的な機能に着目して、森林の取得にいたったところであります。

特に、飲料水の水源をすべて地下水に頼っている太良町にとっては貴重な財産となりました。

【多良岳200年の森つくり】

日本の森林は、杉・檜等の針葉樹を主林木に造成されています。太良町においても同様で、現在人工林率は70%以上を占めていますが、その中で標準的な伐期令を40~50年位に定め、 循環的に林業経営を行っているところです。

しかしながら、林業は長い年月を要する特異的な産業であるにもかかわらず、杉・檜の自然的生存可能樹齢から見れば、人間に例えて幼少期の年齢で伐採を行っているにすぎないと思われます。

全国的に見てみますと、秋田の天然杉や屋久島の屋久杉などの天然林は別としまして、人工林で100年・200年を超す林地はほとんど無く、 有名な神社・仏閣等周辺にある、わずかな林(鎮守の森)がみられる程度です。

当太良町におきましても、県内屈指の人工林が造成されていますが、樹齢が100年を超えるような林地は皆無であります。

そのような中、恵まれた地形地質をもった多良岳山系を活用し、人工林で200年の森林が造成できないかと考えたところ、太良町で組織的に管理してきた広大な町有林と、 経験豊富な知識を持つ森林組合の協力のもとに、国内であまり例のない人工林による「多良岳200年の森つくり」事業を計画いたしました。

この事業は、多良岳のモデル地区において200年生の杉・檜を造り上げていく事業であります。

この森林は、現代林業で主流になっている、80年の長伐期施業に対する指針として、知識や技術の取得に大変参考になっていくものと思われます。

また、200年の森が太良町のシンボル的な名所となり、訪れる方々に癒しの場を提供できるよう、観光事業とのコラボレーションを進めることによって、 当町の財産として重要な役割を担えるよう大いに期待しています。

最後に、材価の低迷や、担い手不足による森林の荒廃など、林業にあまり良くないニュースを耳にすることが多い昨今ではありますが、先人達が育んできた豊かな森林を後世に引き継ぎ、 今後も適切な森林整備や保全に努めるとともに、国及び県の治山事業を活用しながら、「安全・安心な町づくり」のための減災対策やその他さまざまな事業を実施し、 当地域における林業がさらに発展することを目指し取り組んでいく次第です。