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ホンモノの町を目指して

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年4月21日

鳥取県智頭町長 寺谷 誠一郎

 

パラダイムの転換

「お待たせしました。いよいよ田舎の出番です。」

私は、町長に就任したとき、そのキャッチフレーズを思いついたのだが、ここに来てますますその意を強くしています。

2011.3.11の東日本大震災。この日を境に日本人の価値観は大きく転換したように思います。今まで拠って立っていたところの安全安心は何だったのか?本当の豊かさとは何か? 自分の人生における選択や判断は果たして正しいのか?

今までは経済最優先社会で、ともすると思考停止状態だった多くの国民が、本質的な部分でいろんなことを一気に考えるようになったのではないかと思います。

今までは当たり前に考えてきたが、現に物質的に満たされ、健康で生活できることへの感謝の気持ちが芽生え、また人と人との関係性について「絆」という言葉に表されるように、 個人主義から全体がより良くなることにより大きな価値を見いだそうとする動きが加速してきたのではないかと思います。

テーマはホンモノ

私自身、原発事故が起きて考えた事は世の中にニセモノが蔓延してしまった。またそれがニセモノであることに気がつかずに今日まで来たということです。

すわ日本の一大事という事態に、万全と思われた様々なシステムが実は機能しなかったという事実に直面しました。 直感としてこれからは社会全体がホンモノを追求していかなければならないと感じたのです。別ないい方をするとホンモノしか生き残れない時代に我々が突入したといってもいいかもしれません。

外部環境がどのように変化しても、ホンモノであればその軸が決してぶれることはありません。

自分の町も私自身もこれを機会に「ホンモノ」をテーマとして追求する姿勢で行きたいと考えているところです。

要求型から提案型へ

本町では住民のみなさんの声を幅広く聞くためと町の進む方向や基本的な考え方を知っていただくために、 智頭町にある87の集落を約10ヶ月かけてひとつひとつ回る「集落自治座談会」を敢行しました。

少ないときには5~6名の集会から、多いときには50名近くの集会まで、実際に回ってみるとかなり骨の折れる作業でありました。時には住民の声が相次ぎ、 予定した時間を大幅にオーバーするような会合も現れたりしました。

直接住民の声を聞く機会を得ることで「住民の為の行政」という原点を再確認するとともに、行政の実務をスピードアップすることと丁寧な住民説明の必要性を感じたところです。

また一方で町から住民に対しての注文として、今までの行政に対する一方的な「要求型」の姿勢は、厳しいようだが今後一切認めないことも宣言してきました。

これからは、住民自らが考え、汗を流す事業について、行政がサポートする「提案型」事業を進めていかなければ、小さな町が生き残っていくことが出来ないと考えるからです。

住民自らが主体的に町の将来を考え、汗を流していくという意識にスイッチを切り替えていかなければ、本当の意味での自治にはほど遠いのではないでしょうか。

一方通行の「要求型」から、行政と住民がコミュニケーションを密にしながら、化学反応を起こす「相互作用提案型」事業を展開し、 智頭町発信の住民自治の形を模索していきたいと考えております。

智頭町のような財政力の乏しい人口1万人以下の規模の自治体が生き残っていくためには、住民の知恵を結集し、他地域にとって必要だと思われる存在でなければなりません。

そのためには、利己主義的な風潮が蔓延する現代にあって、一見逆説的ではあるが、利他主義的な地域づくりを進めなければ、存在価値が認められないし、 持続可能な地域経営は困難であると感じています。

本町が、掲げる理想像が、いかに他の地域にとって必要とされることとして受け入れられるのか?このことに焦点を合わせて地域づくりを進めるなかに、 田舎の町が生き残る活路が見いだせるのではないかと考えている今日この頃です。