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原点は地理学にあり

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年10月31日

山形県川西町長 原田 俊二

「大学から地理学科がなくなるかもしれない。」と数年前、大学時代の友人から教えられびっくりしました。
平成6年学習指導要領が改訂され、高校地歴科は世界史が必修、地理、日本史は選択となりました。学校では受験対策として歴史科にシフトし、教員配置も地理軽視が進みました。結果、教員養成等の役割を果たしてきた地理学科の存在意義が失われ、将来学科廃止も検討されているとのことでした。
現在高校地理の履修率は5割となり、大学生の世界認識調査によると、アメリカ合衆国、インド、ブラジルの位置の正解は9割を超えているものの、イラクの正解は4割に過ぎませんでした。諸外国では歴史、地理は必修となっており、危機感を感じた地理学関係者、教員など多くの仲間が、新たな視点での地理学の重要性、復活を訴えています。
私は小さい時から地図帳を見るのが好きでした。地図から同じ地名を探したり、外国に憧れたり、巻末の資料編にある主な山や川の位置を地図で確認し、人口密度、鉱物資源の生産や埋蔵量などを繰り返し調べました。
中学時代は、ローマクラブがレポートを発表、「原油等資源の埋蔵量が残り30年、人口爆発による食糧危機が迫っている」との内容に驚き、せっせと新聞の切り抜きを集めました。
高校では「ニュースを見る時は地図帳を開いて」と指導され、一層地理好きとなり地理の教師に憧れました。しかし同級生からは地理は難しいと大学受験で地理を選択した者は少なく、地理学専攻は私一人でした。
大学の地理学専攻の仲間は、私と同様こだわりの強い(個性的な)面々が揃っていました。一浪、二浪の先輩も多く田舎者の私は強い不安を感じました。しかし、入学後すぐに地理学の特色である巡検が実施され、一緒に調査研究することにより同志的な強い絆が結ばれ、卒業して33年になりますが、恩師、学友とは今でも変わらぬ関係が続いています。
地理学は自然地理と人文地理に大別されますが、本質は人間と自然の関係を考える社会科学です。オタクの様な地名や物産の知識を詰め込むことが地理教育の目的ではなく、その知識を生かし社会問題を科学的に研究し解決することを目指します。特に「地理はフィールドに出なくてはならない」との現場主義は、現在の職責を全うする上で私の原点となっています。
私はまちづくりには地理的視点が必須と強く感じています。暗記する地理から考える地理へ発展し、今日的課題を克服するための地理の活用テーマを考えてみました。
地理情報システム(GIS)、統計情報を十分活用し、(1)集落単位の人口動態予測と地域づくり、(2)自然災害予測と減災計画、(3)地域資源を活用した観光、(4)公共交通政策、(5)安全安心マップ作製、(6)コジェネレーションとまちづくり、(7)アメニティーな都市計画などいずれも地理的視点が欠かせません。地形から土地利用を考える、天気図から災害を予測する、自治体の広域連携などは地理学のもっとも得意とする分野です。地理学がもう一度見直され、地理教育の充実が図られることを期待してやみません。
8月地理教育研究会第50回記念大会が東京で開催されました。次回大会は来年7月本町で開催されます。
日本を代表する作家井上ひさし先生は本町出身です。先生は残念ながら昨年亡くなられましたが、遺された膨大な先生の作品を読み返しています。特に代表作「吉里吉里人」にはたくさんのまちづくりのヒントがちりばめられています。もう一度読み直し、地理的興味旺盛な参加者に満足いただけるよう、多様なフィールドを準備していきたいと考えてい ます。