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若桜林業の再生と鹿の捕獲作戦

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年4月11日

鳥取県若桜町長 小林 昌司

若桜町は鳥取県の東南端に位置し、兵庫県と岡山県に隣接しています。
総面積は、199平方㎞で95%が森林で占められ、昭和30年代から40年代には良質の木材を搬出して町も栄えましたが、現在の木材産業は低迷しています。
昭和35年頃には1万人いた人口も若年層の流出が目立ち、昭和45年には過疎地域に指定され、現在の人口は4,200人まで減少し、高齢化率は40%になります。
兵庫県境には国定公園氷ノ山(標高1,510m)がそびえ、氷ノ山スキー場には関西方面からのスキーヤーで賑わうとともに、氷ノ山自然ふれあいの里が整備され、四季を通じて観光客が訪れます。
若桜町は、かつての城下町、宿場町として発展し、白壁づくりの蔵が建ち並ぶ蔵通りや、雪や雨の日でも傘をささずに通り抜けができるこの地ならではのカリ屋が、歴史の面影を忍ばせています。
鳥取県は、年末から年始にかけて10年ぶりの大雪が降り、県中西部では国道やJR山陰線が長時間不通になり車が立ち往生したり、鉄塔の倒壊による広範囲の停電、海岸沿いの飛砂防止の黒松が全滅に近いほどの被害を受けました。
この大雪のため、農林家の敵である鹿や猪が食べ物がなく、集落内まで出没するようになり、特に鹿が杉や檜の若木の皮をはぎ、相当の被害が発生しました。
町では、この鹿や猪の捕獲の緊急対策として、1月から2月末まで捕獲奨励金を増額(鹿1頭5,000円→10,000円、猪1頭0円→5,000円)して、捕獲作戦を猟友会に依頼しました。実に、11月の猟期から2月末までに鹿917頭、猪100頭を捕獲することができました。3月末までには1,000頭を超えるものと予想され、例年の10倍以上の捕獲が見込まれ捕獲作戦は大きな成果があったと思います。例えば、若桜町の森林に2,000頭の鹿が生棲していると仮定した場合、1年に20%ずつ増え続けると、実に5年後には、5,000頭近くになり、あっという間に県内全市町村に広がります。いかに個体数を減らすかということが地方自治体にとっては重要な施策になります。中山間地域の農林家の皆さんは今、諦めの境地であります。本当に国の大幅な支援こそ、中山間地域の農林業の振興を左右するものと痛感しております。
私も町政を担当して5年が経過しました。若桜町の一人当たりの県民所得は175万円程度で、県下では低い方から2番目であります。何とか将来若桜町内で所得を上げることを考えるならば、森林という資源が豊富にあり、しかも、戦後植林した杉が伐期を迎えており、この森林の活用こそが町の生きる道だと考え、ここ数年林業に重点を置いて政策を進めてまいりました。
森林組合がなくなってから10数年経過しており、林家の意識も低い中、「若桜町の林業を考える会」を立ち上げ何回と議論していただき『若桜の林業の将来』について提言をしていただきました。
しかしながら、森林組合がないということは、森林に対する情報が林家に伝わらず、座談会で各集落を廻っても『若桜の林業はもういけんで!』という意見ばかりで、隣接する八頭中央森林組合への加入についても悲観的でした。町としても、若桜の林業の将来を考え諦めずに、しっかりと林家の皆さんに説明してきました。
平成21年度を若桜林業再生元年として八頭中央森林組合への加入を行い、間伐や作業道の地元負担を5%に軽減、間伐材搬出補助金の制度化、作業道の大幅な開設、木の住まい住宅建築費の補助、林業シンポジウム、林業研修会等重点課題として取り組みました。
また、若桜素材生産共同体が設立され、山から直接製材工場に一括搬入する体制が整い、材の選別も容易になり省力化にもつながりました。

平成22年度は、6,000立方mの材が搬出されましたが、目標は12,000立方mの材の搬出を予定しております。林業を取り巻く環境は厳しいものがありますが、今後は若桜杉のブランド化や若者による林業後継者の育成に努め、かつての若桜林業の再生に努力し所得の向上を目指していきます。