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白石平野に水を

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年3月14日更新

佐賀県白石町長 片渕弘晃

平成17年1月1日、旧白石町・福富町・有明町が合併し、新しい白石町が誕生しました。新しい白石町は、東に日本最大の干満差がある有明海、西は万葉集や日本書紀にもその名が残る日本三大歌垣の一つ杵島山、南は塩田川、北は感潮が20㎞にも及ぶ六角川と、四方を山と河、海岸の堤防で囲まれた中に白石平野が広がっています。
平野では、水稲・麦・玉葱・大豆・蓮根・苺・アスパラガス等多くの農産物と、有明海では日本一の有明海苔が生産されています。
町土面積約100k㎡のうち、山地は約1割で、残り9割の平地は有明海の潮汐作用により自然陸化したもの、或いは干拓事業によって生まれた標高3.5からマイナス1.0mの極めて低平で軟弱な、しかし肥沃な平野です。
広い平野に比べ、背後地に大きな山も無いことから用水の確保には大変苦労してきました。飲料水には地下水、農業用水には大小のため池と湧水、そして600haに及ぶ貯水堀(クリーク)を水源としてきましたが、用水不足は補えず、その大半を地下水に依存してきました。昭和42年7月1日から8月25日までの55日間無降雨という大干ばつに際しては、深さ150mに及ぶ深井戸32本が掘られ、飲料水360万 立方メートル、農業用水1,930万 立方メートル、合計2,290万 立方メートルの地下水が汲み上げられました。その結果、最大18㎝にも及ぶ地盤沈下が発生し、杵島山麓にあった湧水はことごとく枯渇し、家屋は傾き、農地は波のようにうねり、支持杭を打った構造物は抜け上がり、階段を継ぎ足すなど、その修復には多大の費用と労力を要しました。現在も地盤沈下は進行中で累計180㎝にも及んでいます。
このような経緯がある白石町では、地下水に依存している用水を地表水に切り替えることは永年の悲願でした。上水道は平成13年4月、佐賀西部広域水道に加入し、地表水に切り替えられました。この結果、昭和42年に枯渇していた800年以上の歴史を持つ『縫ノ池(ぬいのいけ)』に湧水が復活しました。農業用水を地表水に切り替えるとさらに大きな効果が表れ、地盤沈下も終局するものと期待しています。
現在、水源となる嘉瀬川ダムは国土交通省により多くの地権者の犠牲と協力、そして多くの方々の努力によって建設が進められ、平成22年10月にはダムの試験貯水が始まりました。平成24年3月には満水の予定です。
嘉瀬川ダムから白石平野に送水する導水路工事も農林水産省によって進められており、平成24年3月には完成の見込みです。そして、平成24年4月には、この水が白石平野を潤すことになります。その時は地盤沈下が終局し、多品目で、安全・安心な農作物が生産される新しい白石農業の出発となるはずです。これまで本当に長い長い道のりでした。この間ご苦労頂いた多くの方々に心から感謝を申し上げます。集中豪雨では堪水被害で泣き、干ばつで農作物が枯れるのを見て泣く。必要な時必要な水が無い悲しさを知っている私たちだからこそ、日々の生活に欠かせない水の重要性を常に考えて大切に使わなければならないと考えます。
湧水が復活した縫ノ池の地元では、地域住民全員が参加して「水は生命の源」をキャッチフレーズに環境美化や近隣市町の住民を含めた交流活動をしていただいています。水を中心にして地域づくりが進んでいるのです。
白石平野に悲願の水が届く日を間近に控え、「人と大地がうるおい輝く豊穣のまち」白石町建設に向けて頑張っていきたいと改めて感じているところです。