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 天上の御意見番

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年11月15日更新

熊本県南小国町長 河津修司

南小国町は九州のほぼ中央、阿蘇山の北に位置する人口4,600人余りの山間の小さな町である。瀬の本高原や近年話題のパワースポットの押し戸石の丘など自然景観が素晴らしいところが多く、「日本で最も美しい村連合」に加盟し活動している。
町民の性格は至っておとなしく他人にもやさしい人が多いが、中には熊本県人らしく「肥後もっこす」(頑固者)も何人かはいる。
元々農畜産と林業の町であったが、近年は露天風呂めぐりで有名になった黒川温泉や小田温泉などの温泉入浴客や小国郷そば街道にお蕎麦を食べに来て頂くお客様が大変多くなり観光の町としての顔が大きくなっている。
本町では毎年、金婚(結婚後50年)、ダイヤモンド婚(60年)夫婦の表彰をしているが、先日、町で初めてのプラチナ婚夫婦の表彰をさせていただいた。他地域では結婚後65年や70年で祝う所もあるようだが、本町では75年で祝うことにしている。当然、お二人とも100歳近くで少し耳は遠いが自宅で息子さん夫婦(金婚)と生活しておられ、時々デイサービスに行くくらいで非常に元気が良い。特におばあちゃんのほうがよくしゃべるし、老人演芸会などで歌いだすともう止まらないくらい溌剌としている。このおばあちゃんから、昔の町長は自宅前の道を改修して欲しいと要望すればすぐにしてくれたが、今はなかなかできないと私に対する苦言もいただいた。なるほど100歳近い先輩から言われると重みがあり骨身に沁みる。昨今の緊縮財政で厳しい予算であるし、国道、県道、町道の管理区分もあり難しい面もあるが早く改修を終えなければと心新たにしたところである。

この夏、わが町の代表監査を長く勤めていただいた人が亡くなった。豪放磊落な性格だが、決して粗暴ではなく常識人だった。町内を自転車で廻りながら誰にでも声をかけるし、また、誰からも声をかけられる、周りを明るくするみんなの人気者だった。役場庁舎のどこにいてもその存在がわかるくらい声が大きかった。ゆえに、この人と内緒の話や隠し事はできなかった。80歳を超えていたが時代遅れしていなかったし、大変記憶力もよかった。カラオケも好きで、割と新しい歌を歌っていた。まさに時代劇に出てくる江戸時代の天下の御意見番、大久保彦左衛門みたいな人だった。この人は常々「監査は何か問題が起きて町長が謝らなくていいように問題を未然に防ぐためにやっているようなものだから、耳の痛いことも遠慮はしないではっきり言わせてもらうよ」と言って、決算書の監査意見書など厳しい指摘も多く書かれていた。また、本町では若い役場職員が持ち回りで町内放送をしているのだが、この放送に対しても何を言ってるかよく聞き取れないから改善するようにとよく指摘されていた。国や県の官公庁の影響もあって役所言葉というのは何かと横文字が多いし、難しい漢字が多すぎる、わざと分り難い表現にして住民を煙に巻いているのではないか。高齢者も多いのだから、難しい言葉を使わないでもっと町民に分りやすい表現にして、もっとゆっくり一つ一つの言葉をはっきりと言うようにしなさいとのことだが、至極もっともな意見だと思う。私にとって父親みたいな存在であったが、もうあの大きなだみ声が聞けなくなったのは寂しい限りである。冥福を祈るとともに生前に指摘された事柄を忘れることなく、「天上の御意見番」から怒られないようにしっかりとした町政をしていかねばと改めて肝に命じたところである。