埼玉県ときがわ町長 関口定男
今年5月の第174回通常国会で、国産材の利用拡大による木材自給率の向上を狙った「公共建築物等における木材の利用の促進」に関する法律が成立しました。ご存知のとおり、国内では戦後造林された人工林が資源として利用可能な時期を迎える一方、木材価格の下落等の影響などにより森林の手入れが十分に行われず、土壌保全などの機能低下が懸念されています。木を使うことで森を育て、林業の再生を図ることが急務となっているのです。
こうした事態を克服するため、この法律では、今後の需要が期待できる公共建築物にターゲットを絞って木材利用に取り組むとともに、住宅など一般建築物への波及効果を含め、木材全体の需要拡大をねらいとしています。今まさに日本の林業施策の転換期がやって来ようとしているのです。
埼玉県ときがわ町では、55平方㎞の面積の7割を占める山林の荒廃が懸念事項の一つでした。このため森林資源を地域産材として積極的に小中学校の内装に木材を利用するなどの「公共施設の内装木質化」に平成12年から取り組んでいます。
学校施設においては、子どもたちが日々生活する校舎にぬくもりと癒し効果を持つ素材「木」を取り入れることで、校内の雰囲気も落ち着き、教育再生の一助になることと、同時に地域産材の活用が伐採と植林のサイクルのテンポを良くし、山林の活性化が促進されることを狙ったものです。
これまで町内の2つの中学校と3つの小学校の計5校をリニューアルしましたが、内装木質化により湿度が30%以下になることはめったにありません。鉄筋コンクリート造だと結露することが多くみられる梅雨の季節などには、余分な湿気を木が吸収してくれます。
戦後、全国に建てられた小中学校校舎のうち、80%以上は鉄筋コンクリート造。この種の建築物の寿命は一般的に50年から60年と言われており、いずれ建て替えか改修をしなければならない時期が迫りつつあります。そこで安全面を考慮しつつ、最も経費を抑えた改修方法として、「耐震補強」を施し「外壁の塗替え」を実施し、「屋上の防水加工」を行い「内装の木質化」をする。これでほぼ新築と同じ状態を取り戻すことができます。仮に学校を木造新築で1棟建て替えると、10億円以上の金額がかかるそうですが、ときがわ町の手法なら5校分を新築1棟分に満たない金額で、財政を圧迫せずにリニューアルできたのです。
今年5月に発行された冊子『こうやって作る木の学校』(文部科学省・農林水産省)の中で、木材を利用する学校づくりの進め方の取り組み事例として、地域産材による内装木質化と耐震改修による教育環境の整備が「ときがわ方式」として紹介されています。全国の自治体の教育委員会に配布されたと思いますが、まだ目にされていない首長のみなさんも多いかと思われます。この冊子をご覧いただき、学校施設の建築、改修を設計する上での参考にしていただければ幸いです。
日本の国土のうち山林の占める割合は、ときがわ町と同じ約7割です。全国的にも山林の荒廃が叫ばれている今、積極的に木材を資材として活用し、伐採した分は混交林として計画的に植林すべきです。植林された木々は水源地として水を涵養し、土砂災害防止の効果をもたらします。同時に成長期の森林では二酸化炭素の吸収効果も期待できます。成熟した森林では二酸化炭素の吸収能力が低下するため、伐採後に再び苗木を植樹することで、環境問題の解決に向けた効果も期待できます。
山林資源の有効活用には、山林における循環のサイクルを確立することが非常に重要です。全国の学校で鉄筋コンクリート造の無機質な環境から木質化された教室で子どもの教育環境が向上し、同時に木材の活用が図られることで山林再生が進むことを願っています。