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 防災の日に想う

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年8月9日

愛知県町村会長 扶桑町長 江戸 滿

安全な地域で伸び伸びと安心して暮らしたいとの願いは、生活者にとってごく自然な感情だ。したがって、「安心・安全で快適なまちづくり」は、表現の差はあるとしても、総合計画などにおける共通用語となっていると思う。
安全を阻害する脅威の中で、安心して暮らすことは、容易なことではないので、様々な脅威から地域や個人を守る方策を講じておかなければならない。
この場合、交通事故や犯罪等の日常的人為的脅威と、或る日突然起こる可能性のある大規模震災等の突発的自然的脅威の両面に対処する必要がある。
「自らの身の安全は自ら守る」のが防災の基本なので、すべての住民、事業者、団体が、防災に関する責務を持っている。とはいえ、それぞれに限界があるので、自助、共助、公助の「補完性の原則」が、震災状況に対して適時・適切に機能しなければならない。
そのため、防災意識の高揚を図りつつ自助を促進し、共助の仕組みを強めるとともに、公助は大震災等の最悪状況を想定した準備と訓練をしておくことが要諦である。
わが町においても、前記のような考えのもとに平素の準備(施設や家屋の耐震化、家具等の転倒防止、備蓄等)や防災の日における訓練を進めているものの、大震災時に十分機能するのか、正直大変心細いのである。
最も心細い点は、危機管理における指揮機能(災害対策本部)であり、主な弱点(欠落機能)は次のとおりである。
○訓練想定が国レベルにおける震災 の警報を中心としたものであり、訓練実施町村における被害状況等を含 む想定でなく、実際的訓練に適していないこと。当該訓練町村において 想定される具体的な被害状況が震災発生からの段階に応じて災害対策本部に付与されないと、実際的な指揮機関の訓練とならないのである。
○司令塔となる災害対策本部(指揮所)の組織が、平時の組織を基本としたもので、非常時(大震災等)に有効な組織となっていないこと。
非常時は救助活動、緊急物資の調達・輸送等を混乱した状況の中で迅速に実行する必要があるために、強力な統制と一元的な指揮が重要である。
○災害対策本部としての指揮機能を発揮するためのいわゆる、指揮所訓練(CPX:command post exercise) の体験がほとんどなく、ノウハウを持っていないこと。
このことは、前に指摘した想定並びに指揮組織と関連が深く、具体的想定に基づく指揮所訓練を経験するしか方法がない。また、それにより想定の不備が是正され、指揮所活動のあり方が改善され、更に平素準備すべき事項の不備が発見される。
○指揮所訓練がほとんど実施されないために、指揮所に備えておくべき大道具・小道具(設備・備品等)が準備されていないこと。
例えば、混乱状況の中での各種の情報が整理されないと、適切な状況判断に影響があり、限定された隊力・資材の有効な運用に支障をきたすことになる。
防災訓練の現状における主な弱点(欠落機能)を列挙したが、震災の被害対応は、(1)緊急時(発生後3日間位)(2)救急期(3)復旧期(4)復興期へと進む。そして、(1)の2~3日で、被災地の各種状況が判明してくるので、(1)の初期段階における指揮の良否が、致命的な結果を招くことになるといえる。
これまでに申し述べたことから町村においては、今後災害対策本部を対象とした指揮所訓練を重視して実施する必要があることを提言したい。そして、その訓練が、非常時のみのものではなく、平素の勤務に良い影響を与える効果もあると付言し たい。
しかし、町村独自での対応は、経験のないことや人的制約が大きいことからきわめて困難であり、国或いは都道府県において阪神淡路大震災等の教訓を織り込んだ想定の作成及び訓練指導等を援助し、町村の訓練を誘導することが必要であると考える。
町民の生命・財産を保護し、混乱した状況を努めて速やかに収拾して、平穏な生活を回復する直接の責任者は、地方自治体の長である。防災の日に“備えあれば憂いなし”と訓示しているが、どんな備えができているのかを自問自答し、内心忸怩たるものを感ずるのである。