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 販売のこころ

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年6月14日

青森県板柳町長 舘岡一郎


私は板柳町ふるさとセンター所長時代、年号が昭和から平成に変わる頃、たびたび大都市のデパートに足を運んだ。
ふるさとセンターで製造したりんごワークブランドのジュースやジャムなどのりんご加工品の売り込みのためである。
ある時、大阪のデパートの用件を済ませた後、たまたま京都四条通り河原町の高島屋京都店を訪ねた。
「全国うまいもの展」に参加以来、三年ほど取引きをさせて頂いている地下食料品売場に店を構えている株式会社細川の社長にお会いしたいと思ったからである。
デパートに着いたのは、丁度昼頃であったが、幸いに細川社長も居られた。
四十歳半ばで、物腰の柔らかい、いかにも京都の人らしい感じのお方で、私は、それまで何回かお会いし、面識があったので、型どおりの挨拶をして、お邪魔しようと思っていたら、「昼飯でもどうですか」と誘われたので、好意に甘えることにした。
食事をしながら、世間話をしていたら、細川社長が顔をちょつと曇らせて、「実は、私の親友が肝臓が悪くて…」と切り出し、主治医から様態がなかなか良くならないので、そろそろ薬を替えて、漢方薬を飲んだ方が良いのかなと言われたことなど、いかにも心配そうに話された。
その話題は、そこで打ち切られたが、私の脳裏のどこかにそのことが残った。
私は仕事に忙殺され、細川社長のその話しを忘れていた。
板柳町は、平成5年に中国北京市昌平県(現在は区)と友好交流協定を結び、りんごの栽培技術指導等のために、りんごの専門家である指導監を年4回、中国に派遣していた。
その出張伝票を処理している時に、私は、ふと細川社長のあの時の話しを思い出した。
私はすぐ指導監に会って、中国で最も肝臓に良く効く漢方薬を買って来てくれるよう依頼した。
1週間ほどして、漢方薬が届いた。
薬の名前は忘れたが、丸くロウでくるんだ漢方薬で、1箱に10個ほど入っていたように記憶している。
たまたま名古屋のデパートに用事もあったので、その足で細川社長を訪ねた。
先日お邪魔した時に、社長が親友の肝臓の病気のことを大変心配しておられた様子が気になり、中国の漢方薬を購入したので、主治医と相談の上、良かったら服用させてほしいと差し出した。
細川社長は、一瞬ビックリした様子であった。
そして私の手を固く握り「本当にありがとう」と、如何にも感激した様子で受け取ってくれた。
それから3か月ほど経ったある日、突然、細川社長から電話があった。
「あの漢方薬、もう一度手に入りませんか」ということであった。
親友とオーストラリア旅行をし、常用していた薬を切らしたため、中国の漢方薬を服用したこと、帰国後、検査の結果、肝機能の数値が低くなっていたことなどを、嬉しそうに話してくれた。
何か暖かい気持ちに包まれた。
すぐに漢方薬を手配し、届けたのは言うまでもない。
それ以来、細川社長の厚い信頼を得て、ますます親交も深くなった。
商品の販売面でも、高島屋百貨店の物産展参加などのほか、板柳町展も年2回開催させて頂いて、売上げも順調に伸びていて、今でも親交が続いている。
現在、りんごワークブランド商品は、国内百貨店のみならず海外では、香港シティスーパーをはじめ、台湾や上海のシティスーパー、シンガポール伊勢丹百貨店で販売するようになった。
私は、職員に「物を売るには先方様の気持ちをよく理解しなさい」と、常に説いている。