静岡県吉田町長 田村典彦
平成15年の統一地方選で当選してから、既に7年の歳月が過ぎました。私は55歳で帰ってきたUターン組の一人です。生まれ故郷に帰ってきた訳ですから、親戚や知人はおりました。然しながら、帰るまで30年以上にわたり故郷を離れていましたので、故郷の現況についての知識は疎いものがありました。
平成15年の選挙に立候補するに当たり、有権者の考えなどを知る必要がありました。選挙の定石は、ドブ板での有権者訪問です。平成14年3月から始めました。ゼンリン住宅地図を傍らにおよそ8,300軒の家を一軒一軒訪ねました。仕事の傍らでしたので、終わるまでに約10ヶ月かかりました。その年の暮れの12月28日に記者クラブで立候補の声を挙げました。
有権者の要望は、大きく二つになりました。一つは透明で分かりやすい入札、もう一つは日曜日の役所の開庁です。
入札について言えば、当時の落札率は殆ど99%を超しており、談合の匂いが漂っていました。有権者は談合の匂いを嗅ぎ、談合のできない入札の仕組みを作るよう要求しました。日曜開庁について言えば、仕事を休んで役所での用事をこなす不便さをなくすよう要求しました。
談合のできない入札は、発注者が入札者を特定しないことで、談合が無意味となるような仕組みを作ることが鍵です。次のように考えて創りました。先ず、入札参加者は、単に資格を保有していればよしとしました。次いで、入札者を抽選で決めました。どの業者が入札に参加できるのか、まさに抽選の運次第になりました。業者間で事前に談合しても、談合で決まった業者が抽選によって入札に参加できるかどうか分かりませんから、談合は無意味になります。抽選型指名競争入札と名付けられた入札の仕組みによって、落札率が導入以前の99%から導入後は82%から85%に下がりました。有権者から求められた透明で分かりやすい入札が生まれたのです。
日曜日の開庁は、行政がサービスであることを考えれば当然のことです。行政は納税者の納めた税金で運営されています。有体に言えば、納税者の懐に手を突っ込み、財布を取り出してこじ開け、法律で決まっていると言って取り上げたものが税金です。民間の会社が購入者の欲しいものを売って得た利益とは根本的に違うものだと考えなければなりません。税金によって納税者に提供する行政サービスは、民間会社が購買者に提供するサービスとは根本的に違うものです。納税者には税金を払うか払わないかの選択はありませんが、購買者にはモノを買うか買わないかの選択はあります。役所は納税者に対して利便性を図ることが求められます。納税者の目に見え、肌で感じられる利便性が日曜開庁に他ならないと考えました。
入札改革も日曜開庁も既得権を持った者に痛みを強いるものです。入札改革は建設業者であり、日曜開庁は職員です。抽選型指名競争入札の導入は、それまでの建設業界の慣行を解体するものであり、日曜開庁は土曜日や日曜日は無条件に休日だと受け止めていた職員に出勤を強要するものでした。入札改革はディフェンディング・チャンピオンがいないことでガチンコの競争を可能にし、日曜開庁は納税者が休んで用事を済まさなければならない理不尽さをなくしました。
私のまちづくりは入札改革と日曜開庁で始まり、恣意性の働かない行政運営の仕組みづくりを探っています。まちづくりの原点は、納税者である有権者の視点に立ち、視線に合せ、理解を求め、支持を得ることに尽きるものと思い、悩むときはいつも其処に戻ります。